大河「いだてん」からそれでも目が離せない理由 視聴率では測れない「情報洪水」の快感

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「いだてん」の魅力分析に戻る。この「情報洪水」論に加えて、キャスティングに目を向ければ、主役(の1人)である中村勘九郎の魅力が光っている。途方もない人数の有名俳優たちの中心で、純粋で無垢な金栗四三役を若々しく演じている(37歳には決して見えない)。

ここで思い出すのは、「あまちゃん」における能年玲奈(現「のん」)のことだ。彼女も、「あまちゃん」の濃厚なキャスト陣の中心で、イノセントな魅力を放ち、濃厚な世界に視聴者を誘引するゲートウェイの役割を果たしていた。

(元)テレビ好きにとっても「いだてん」は、少々度が過ぎる部分があるかもしれない。そういうクドいところを中和し、読後感を爽快にする役割を、中村勘九郎が担っている。彼の存在が今後、新しい視聴者の開拓につながっていくと思われる。

「いだてん」は五輪の原点を問いただすドラマ

加えて、3つ目の魅力として、「オリンピックへの原点的なスタンス」を挙げておきたい。これは、ここまで述べたことに比べて、やや些末な視点のように感じるが、その意味は、回を追うごと(=2020年東京五輪が近づいていくごと)に高まっていくはずだ。

初回で描かれたのは、永井道明(杉本哲太)が主張する、閉鎖的な「体育」的価値観と、嘉納治五郎(役所広司)が主張する、平和(フランス語で「ペ=Paix」)を重んじる「スポーツ」的価値観の対立構造だ。この対立構造は、おそらく「いだてん」全体を支配する通奏低音になっていくだろう。

宮藤官九郎は、『週刊文春』(1月31日号)の連載コラムで「一部でプロパガンダだ国策ドラマだと邪推する人がいると、見たくもねぇネットのニュースが流れてきて知りました。いやいや、冷静に考えて。そんなに重要なミッションなら俺なんかに任せないって」と書いていた。心強いと思う。

「来年のオリンピックに暗い影を落とす出来事が起こって」いる(上コラムより)中、「いだてん」は、オリンピックの原点を問いただすドラマとなっていくのではないか。そしてそのことは、(元)テレビ好きに加え、原点志向の(元)オリンピック好きの開拓にもつながっていくと考えるのだ。

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