クリストルと一緒に『ウィークリー・スタンダード』を創刊したネオコン論客ジョン・ポドレッツは同誌廃刊を、オーナー企業に「殺されたようなもの」と批判。ポドレッツは、やはり反トランプのネオコン誌『コメンタリー』の編集長を務めている。一方、保守系オンライン・ニュースサイト『ブライトバート・ニュース』をはじめとするトランプ派メディアは保守派内の宿敵の廃刊に快哉を叫び、「ざまーみろ、反トランプ」とツイートするラジオトークショー・ホストまで現れた。
『ウィークリー・スタンダード』の廃刊は、保守派内部で進行するメディアの影響力の再編を示す典型的事例だ。1960年代末から始まったネオコンの興隆が半世紀以上を経て衰退の兆しを見せている。ネオコンは当初、クリストルの父親の評論家アーヴィング・クリストル(1920〜2009年)や、ポドレッツの父親の文芸評論家ノーマン・ポドレッツ(1930年〜)を中核とした新思潮で、レーガン政権以降の保守政治に強い影響力を持った。
従来の保守系雑誌はほぼトランプ系に転向
メディア界では、1965年創刊の論壇誌『パブリック・インタレスト』や1985年創刊の外交論壇誌『ナショナル・インタレスト』がネオコンの旗艦メディアとして強い影響力を持った。フランシス・フクヤマの「歴史の終わり」が当初は論文として後者に発表されたのは、ちょうど30年前である。これらの第1世代ネオコン論壇誌は、2000年代初頭に廃刊ないしオーナーの交代があり、第2世代ネオコンの『ウィークリー・スタンダード』が伝統を維持していたが、それも終焉を迎えた。
代わって影響力を持ち始めたのは、トランプ派メディアだ。『ワシントン・イグザミナー』や『ブライトバート・ニュース』のような新興のメディアもあれば、『ニューヨーク・ポスト』紙のように旧来のメディアがトランプ色を強めているケースもある。本格ネオコン系をのぞいて、従来の保守系紙誌の多くはトランプ系に転向したといってもよい。
保守系紙誌のかなりが、大統領選中は反トランプだった。選挙中からトランプ支持派だったメディアは、当時スティーヴ・バノンが仕切っていた『ブライトバート・ニュース』、いわゆるオルタナ右翼系のオンライン・ニュースサイトや、まとめサイト(日本の「5ちゃんねる」を真似た4chanなど)だ。
そうした怪しげなメディアとは別に、トランプ登場を歴史的な転機、あるいはチャンスと捉えて、アメリカ国家の転換や改造を目論む知識人らが集まってつくる論壇誌やオピニオン・サイトも現れた。1960年代末からネオコン系メディアが現れて、その後のアメリカの社会思想を変えていったのと、似た現象といえる。これらのメディアは思想運動を展開しはじめたと見ることができる。
もっとも論争を巻き起こしたのは、2016年2月にネット上にこつぜんと現れ、約150編の匿名のオピニオン・エッセーを次々と発表し4カ月後に再び忽然と消えたオピニオン・サイト『ジャーナル・オブ・アメリカン・グレイトネス』(通称JAG)だ。
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