日本人が知らない「トランプ派メディア」の本質 保守系メディアに吹き荒れる変革の嵐

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トランプのスローガン「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」をもじったタイトルを持つこのサイトでは、トランプ自身というより、トランプが追求する政策、それが巻き起こしている旋風に対し、思想的・理論的支持を表明する論陣を張った。数人と思われた論客たちはすべてラテン語のペンネームで、正体不明。相当ハイレベルの知識人と思われた。

JAGの論客たちは、トランプ現象を①経済ナショナリズム、②国境管理、③アメリカ(の国益)第一の外交――の3つ要素から成ると要約した。これらによって国境を越えたグローバル社会で自己利益のみを追求するエリート・テクノクラート支配層=「魂のない経営者階級(managerial class)」を打破しようとするのが、いま起きているトランプ現象の根底の意味だと結論づけた。

リベラルメディアも注目したJAG論客

トランプ派匿名知識人たちは、具体的には「世界経済フォーラム(ダボス会議)」や「クラブ・フォー・グロース(成長クラブ)」など経済グローバリズムを推進する組織に反対を表明し、外交面では民主主義拡大や人道介入を「アメリカの国益に反する」と明確に否定。国境を越えて活動する多国籍企業(特に金融)の「寡頭支配」によって推進されているのがグローバリズムと多文化主義であり、その寡頭支配の下で普通のアメリカ国民は経済的困窮に置かれ、「自由」さえも圧迫されている――という世界観を示した。左派の反グローバリズムとほとんど変わらない論調だ。

ニューヨーク・タイムズや『ニューヨーカー』など高級紙誌が、新手の右派論敵の出現に驚いて、匿名の論客たちの正体探しに動き出した。やがて、JAGの中心にいたのは、ハーバード大で政治学博士号を得てヘッジファンドに務めていた、当時30歳のジュリアス・クレインと、一時ブッシュ(息子)政権国家安全保障会議に勤めていたマイケル・アントンだと突き止めた。

クレインはトランプ政権発足から間もない2017年春に高級論壇誌『アメリカン・アフェアーズ』を創刊。かつてのネオコンの旗艦誌『パブリック・インタレスト』に劣らない高度な政策論争を繰り広げている。

同年夏にヴァージニア州シャーロッツビルで起き、死者まで出した白人至上主義者デモで、トランプ大統領がデモ支持ともとれるあいまいな対応をしたことでクレイン自身はトランプに距離を置いた。しかし、新論壇誌がトランプ時代という混迷期を捉えて、アメリカにこれまでにない思想運動をもたらそうとしている状況は変わらない。

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