7浪して医学部に合格した「3児の母親」の執念 それでも医師になる夢は諦められない

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三澤氏は9歳と3歳の子どもの母親だ。毎朝3時に起きてデスクワークをこなした後、子どもを研究院併設の保育園に預けてフルタイムで働いている。講演や原稿執筆、管理業務など膨大な仕事をこなす日々。家事・育児以外のすべての時間を使っても足りないのが現状だという。第2子出産時も入院日まで勤務していたほどの激務だ。

「育児中の女性なら、ここまでして続けることなのかと誰しも悩むと思います。泣いている子どもや病気の子どもを預けて働くのはつらい。しかし、医師の仕事は、患者の命を救い、生活の質を高めるやりがいと責任のある仕事です。私の講演を聞いたり、原稿を読んでくれたりした方々がその方法を実践してくれることによって何倍も医療に貢献できる喜びは何物にも代えがたいです」

情報過多ゆえ、目標値を低く設定しがち

とはいえ、三澤氏のように子どもを育てながら仕事を続ける医師は多くない。厚生労働省の調査「女性医師に係る現状について」によると、女性医師の就業率の推移は26歳で94.6%なのが、その後減り続け、38歳時には73.4%(男性は89.9%)と最低値に。女性医師が仕事を中断(休職)、離職した理由のトップは「出産」(70.0%)、「子育て」(38.3%)となっている。

こうした中、「育児と仕事の両立は、診療科の特性と病院の体制に大きく依存する」と三澤氏は言う。育児中は勉強の時間を取ることが難しく、学位や専門医を取りにくいという悩みを抱える女性医師も少なくない。

前述の厚労省の調査では、「子育てと勤務を両立するために必要なもの」として、女性医師の多くが「職場の雰囲気・理解」「勤務先に託児施設がある」「子どもの急病等の際に休暇がとりやすい」「当直や時間外勤務の免除」などを挙げている。

そこで、三澤氏は女性医師が復帰後もやりがいのある仕事ができるよう専門医資格取得を支援。外来勤務だけから復帰できる体制づくりにも取り組んでいる。三澤氏は、教官として産後フルタイムで復帰した初めての事例で、同氏をロールモデルに、次世代も続き始めている。

「若い女性医師の傾向として、情報過多であるがゆえに、結婚・出産する前から目標を低く設定し挑戦しない人が増えていると感じます。医学部に入学したときに描いた理想を追求したうえで、どうしてもシフトチェンジしなければならない状況になったときに調整すればいい。成長し続ける意欲を忘れずにいてほしい」

医師の労働環境は厳しい反面、やりがいがある仕事だ。医師免許があれば、訪問診療やオンライン医療相談など勤務医以外で活躍する道もある。前島氏のように、本人の努力と覚悟、そして、家族の協力が伴えば、年齢にかかわらず目標を実現することは不可能ではない。人生は一度きり。誰もが後悔しない生き方を選択できるよう、社会的環境を整備することが望まれる。

松元 順子 フリーランスライター

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まつもと じゅんこ / Junko Matsumoto

企業取材・経営者インタビューを中心に活動。1975年、愛媛県松山市生まれ。伊予銀行、千葉銀行勤務を経て、2009年に編集プロダクションに転職。主に女性向けMOOKの編集アシスタント兼ライター業務を担当。その後、ベンチャー系採用メディア制作会社のライターとして、経営者インタビューを多数経験したことから“挑戦する生き方”に強く興味を持つ。Web制作会社勤務を経て、2012年6月に独立。ビジネス系媒体を中心に、雑誌、企業PR誌、Webメディアなどの取材・原稿作成に携わる。

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