7浪して医学部に合格した「3児の母親」の執念 それでも医師になる夢は諦められない

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「子どもを犠牲にしているのでは」と周囲から批判を受けることもあった。しかし、それを批判ではなく、1つの意見として受け止めるように心掛けた。「批判の裏には自分も何かしたいという思いが少なからずあるのではないでしょうか。現実を受け入れるか、変えていくかは人それぞれ。お互いに後悔しない生き方を選択したいものですよね」(前島氏)。

多忙を極める中、母親と夫が育児と家事を分担してくれた。特に夫はもともと医師を目指していたこともあり、「自分の人生を生きる女性を応援したい」と、料理、洗濯、授乳、オムツ替えなど、全面的にサポート。子どもが発熱することも多々あったが、夜間は前島氏に代わり看病してくれた。このほかにも、積極的に保育園の行事に参加したり、勉強を教えたりなど、あらゆる面で積極的に育児をしてくれた。

夫の転勤に付き添いながらも医学部を受験

「綱渡りのような子育てでしたが、夫と母と私のチームプレーで何とか乗り越えられました。また、義理の両親や友人にも助けてもらいました。勉強に集中する時間が持てたのは、周りの方々のおかげであると感じています」(前島氏)

夫の転勤で福岡、北海道と引っ越しが多かったが、転勤中は地方受験可能な医学部を受験するとともに、全国の受験地を飛び回った。妊娠後期、願書締め切り日当日に上京したことも。そこまでするには、「何としてでも医師になりたい」という譲れない思いがあったからだ。

こうした強い思いと努力が実り、7浪を経て、39歳で藤田保健衛生大学医学部(現:藤田医科大学)に合格。「いま振り返ると、合格したのは奇跡だった」と前島氏は言う。同大学広報部によると、昨年度の医学部合格者の男女比率は、72.5対27.5。医学部の総志願者数(のべ)3679名のうち、30代以上の女性(のべ)は20人(0.54%)と極めて少ない。また、昨年度の医学部合格者全体に占める30歳以上の女性の割合は、0.58%となっている。

その後、前島氏は第2子が0歳の時に医学部に入学した。母親に子どもを預けて昼間は大学に通った。医学部に入学後もたびたび本試験に失敗。不眠に悩まされることもあったが、そのたびに同級生や先生、ネットで出会った友人などに支えられて乗り越えた。授業はつねに前列を確保し、感染症や救急医療の勉強会にも積極的に参加。子ども連れで参加したこともある。そんな前島氏の姿を見て、子どもたちも医療の道に興味を持っているという。

「どんな環境にあっても『生きていてよかった』と感じてもらえる医療を提供することが目標」と語る前島氏

「医師になったら、自身の経験を活かし、ネグレクトなど虐待を受けた人やトラウマを抱えた人が深い愛情を感じられるようなケアをしたい」と前島氏は言う。「また、終末期の患者さんが最期までその人らしく希望を持って生活できるようにサポートしたいです。将来的には、訪問診療で受刑者やホームレスなど適切な医療を受けることができない人々の手助けをしたいとも考えています。どんな環境にあっても『生きていてよかった』と感じてもらえる医療を提供することが私の目標です」。

前島氏のように子育て中の女性が医師となったとき、仕事と育児の両立は可能なのか。女医のキャリア支援、院内の働き方改革に取り組む千葉大学大学院医学研究院の神経内科学准教授・三澤園子氏(44)に聞いた。

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