北方領土交渉のカギ握る日ソ共同宣言の本質 日ロ交渉はプーチンの思惑通りに進んでいる

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かわりに強調しているのが国連憲章の旧敵国条項だ。安全保障面において旧敵国に対する例外的な軍事行動を認めた107条などを根拠に、国連のメンバーである日本が第2次大戦の結果を否定しようとすることは国連憲章違反であるというのだ。しかし、この旧敵国条項については、1991年にミハイル・ゴルバチョフ大統領が来日した際、「旧敵国条項はもはやその意味を失っていることを確認する」と合意し、共同声明にも盛り込まれている。したがって、この主張は説得力を欠いている。

対する日本政府はこれまで、北方領土は「わが国固有の領土」であり、現在は「不法占拠されている」、そして、「4島一括即時返還を求める」と一貫して主張してきた。ところがこうした表現は近年、表舞台からは消えている。冷戦時代から掲げていた原則論を突き付けても、ロシアの反発を買うだけで、領土問題は一歩も前に進まないとの判断からだろう。

そして現在のキーワードが1956年に合意された「日ソ共同宣言」だ。安倍首相とプーチン大統領の合意に基づき、日ロ政府は現在、この日ソ共同宣言を基礎に交渉を進めている。このことは日本政府にとって大きな方針転換である。

日本政府はロシア側に問題を認めさせただけ

冷戦終結後、日本政府はゴルバチョフ大統領やボリス・エリツィン大統領相手に、日ロ間には領土問題が存在し、それは4島が対象であるということ、そして日ソ共同宣言が今も有効であることを認めさせることに力を入れてきた。長く続いた冷戦時代において、ソ連は「日ソ間に領土問題はない」と主張し、日本の主張を無視し続けた。冷戦崩壊と新思考外交を掲げるゴルバチョフ大統領の登場は、それを切り替える好機とみたうえでの対応だった。

その結果、ゴルバチョフ大統領とエリツィン大統領は、領土問題の存在を認め、それが4島の問題であると明言し、共同声明などの形で文書に残した。レオニード・ブレジネフ書記長時代に比べると180度の転換であり、日本は大きな前進とみていた。

しかし、当時のことを詳しく知るアレクサンドル・パノフ元駐日ロシア大使はロシア側の対応を、「4島に対する国際法上の帰属の問題が日ロ間で最終的に解決していない現実を単に認めただけ。これら諸島が日本領であることにロシア側が潜在的にも同意したことを全く意味しない」と書いている(『日ロ関係史』2015年、東京大学出版会)。つまり、ロシア側には4島を返還する気はまったくなかったわけで、実際、2人の大統領時代、領土問題は何も進まなかった。

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