栗山監督が「こっちの責任」といつも言う理由 責任は「取る」ものではなく「果たす」ものだ

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「こっちの責任」という言葉を口癖のように使ってしまうのは、もし別の選択をしていれば結果は違っていたかもしれない、という思いがつねにあるからだ。

実際、チャンスでヒットが出なくても、なんで打てないんだと考えることはない。バントを失敗してランナーを送ることができなくても、なんでバントができないんだと考えることもない。その場面に到るまでに、別のやり方をしていれば、ヒットは出たかもしれないし、バントは決まっていたかもしれない。そうさせてやれなかったことに、いつも責任を感じてしまう。決してきれいごとではなく、だ。

たとえば、ヒットが1本しか打てなくて負けてしまったとする。でも、もし1巡目にじっくりとボールを見ていくよう指示を出していたら、目が慣れてきた2巡目以降にもう1本ヒットが出て、それでスコアが動いて、別の結果になっていたかもしれない。結果論にはなるが、どんな試合でも手の打ちようはあったはずなのだ。

野球人である前に一人の人間なんだ

何かを動かさないと流れが変わらないと感じるときには、確率論ではなく、流れを変えるために代打を送ることもある。タイム的には、盗塁が成功する可能性が低いランナーに、あえて走らせることもある。それらはきっと成功することのほうが少なくて、失敗することのほうがはるかに多い。それだけ敗因はたくさんあり、それを作っているのは監督ということなのだ。

きっとやり方が間違っているんだろうな、ほかに手の打ちようがあったんだろうな、そういった自責の念が、試合後に湧いてくるだけならまだしも、試合中に湧き上がってきてしまうから、どうにもタチが悪い。

「断ち切れ、断ち切れ、あとでいいんだ、あとで整理しよう」と自分に言い聞かせてみるが、どうしてもそれに引っ張られてしまう。大事な試合ほど、申し訳なさ過ぎて、引っ張られてしまう。それだけ勝ちたい。だから、思考がおかしくなる。

そういったものを断ち切って、前に進むためには、やはり「人間力」を高めていくしかない。

「野球人である前に一人の人間なんだ」と、いつも言うのはそういうことだ。

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