出産の真実を知った人が直面する根深い悩み 不妊治療という決断が新たな社会問題を招く

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2003年の調査では、AIDで生まれたことを知って、ドナーを探していた女性とそのドナーだった男性にインタビューできた。

その1人はメルボルンに住む22歳の女性である。彼女がドナー探しをしていることは、新聞に写真入りで掲載された。その記事を見た男性が、精子を提供した時期と病院が一致していたことから、自分かもしれないと名乗り出た。ドナーが見つかるのはとてもまれである。

この男性は当初、名乗り出るかどうか迷ったという。学生時代に金銭目的で軽い気持ちで提供したことに気がとがめた。パートナーに相談したうえで、名乗り出た。直接会って、身体的特徴がよく似ているのを互いに認め合った。

ドナーを探していた女性は、父親はあくまでも育ててくれた人(法的・社会的な父)だと思っているが、生物学的につながった人がわかって安心した、うれしいと話した。女性の「法的・社会的な父」も、それまでは顔の見えない存在だったドナーが、いつか子どもを取り返しにくるのではないかという不安にさいなまれていたが、ドナーになった男性と知り合って不安が消えたという。

「ドナーのことをまるごとの人間として知りたい」

女性はインタビューでこう答えた。

「親友はなぜ私が生物学的なきょうだいや父を知らないことを深く悲しむのか、父に育てられたのになぜドナーを知りたいのか理解できず、私を支えられなかった。それでだんだん離れていった」

女性は次のように続けた。

「ドナーに似ていることは、私の人生に彼が関与したことの証拠。私たち子どもが何を考えるかを知り、子どもの権利を考えるべきだと思う」

筆者はそのとき、彼女の親友と同じ感想を抱いていた。やっと理解できたのは、もう1人インタビューしたときだった。

シドニーに住む20歳の女性はメルボルンの女性と同様、ドナーを探してマスメディアに取り上げられ、名乗り出た何人かと遺伝子検査をした。が、ドナーは見つからなかった。彼女に「ドナーについて何を知りたいのか」と尋ねた。

「私はどうしてドナーが精子を提供したのかを知りたい。それから提供者の生活についても知りたい。どんな仕事をしていて、何が好きで、何が嫌いか。単に、チョコレートが好きかどうかとか、ハムが嫌いかとか。でもチョコが嫌いだと言われないかと怖いわね。チョコは私の神様だから(笑)。私はドナーのことが仲間として知りたいのであって、父親と思っているわけではない。父親なんてまったく思っていない。私にはパパがいるから。だけど、ドナーのことを丸ごとの人間として知りたい」

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