出産の真実を知った人が直面する根深い悩み 不妊治療という決断が新たな社会問題を招く

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世界では、どのように生殖医療が実践されているのか。

生まれた子どもが精子ドナーの情報にアクセスできる制度は、スウェーデンが最初に実施した。1985年のことだ。さらに2002年には、精子提供または卵子提供による体外受精で生まれた子どもも、ドナーの情報にアクセスできるようにした。ところが実際には、ドナー情報の開示を求める人は多くはないという。いちばんの理由は、両親が子どもに事実を伝えてこなかったためである。

父子が生物学的(遺伝的)につながっていないこと、母がAIDによって妊娠したこと、それは父の無精子症が原因であること。これらを子どもに説明するのは困難を伴う。それでも最近では、事実を伝えるのが子どものためとする認識へと変化してきた。

スウェーデンに続き、長らく匿名での提供を維持していたイギリスを含めたいくつかの国が、ドナー情報を開示する方針に転換した。それによって日本の医療機関も変化を想定するようになったわけである。

その一方で、ドナーの匿名制度を維持している国や地域もある。近年、日本から大勢が卵子提供や精子提供を求めて渡航する台湾もその1つである。台湾はメディカルツーリズムの一環として、不妊治療や第三者が関わる生殖補助医療を推進している。しかし、議論の末、きょうだいや親族、友人をドナーにするのは認めず、ドナーの匿名制度を維持している。

同性愛者たちも利用してきた

生殖補助医療大国のアメリカは、一般の不妊治療のほかにも、精子提供、卵子提供、代理出産を実施している。世界中から顧客を集める莫大なマーケットである生殖補助医療には、医療施設だけではなく、製薬企業、医療機器メーカー、検査企業など多くの産業が関わり、ドナーを斡旋するエージェンシー、法的手続きに関わる弁護士、心理カウンセラーなど多くの人が収入を得ている。

アメリカには生殖補助医療に関する連邦法はない。匿名ドナーを原則として、商業的な精子や卵子の取引が行われてきたので、「出自を知る権利」を認めるとドナーが減ると懸念されていた。ところが、そこはアメリカである。匿名ドナーとともに、個人情報の開示を承諾したドナーを用意するエージェンシーが現れた。ドナーの個人情報開示を望むクライエントが増えたためである。

AIDは不妊の夫婦のためにだけ行われてきたわけではない。

たとえば一部のレズビアンカップルは、知人を精子ドナーとして、DIY(Do it yourself)のAIDキットを購入して、子どもを得てきた(ただし感染症のリスクをはらむ)。アメリカなどいくつかの国では、シングル女性、ゲイカップル、シングル男性も、あらゆる生殖補助医療を駆使して、子どもを持つ事例が決して珍しくなくなった。

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