東京で「男3人暮らし」する40代の意外な日常

「快」と「楽」に最適化された大人の生活は…

あるときは、会社を共同で立ち上げた仲間に資金を使い込まれ、2億円の借金を背負ったこともあった。しかしMさんは、血のにじむような努力の末に、その後の数年で見事に借金を完済した。Eは言う。そのときの苦労を思えば離婚がなんだ、きっとすぐに何ということもなくなるはずだと。

そして実際、そのとおりになった。唯一の気がかりは離れて暮らす娘たちだったが、Mさんの構えた居心地のいい家に、必ず月に1、2度は遊びに来てくれるのだそうだ。

「この前、娘にせがまれて原宿に服を買いに行ったんだよ。娘の買い物に付き合うなんて、離れて暮らすようになったからできたんだと思う」

そう語るMさん。そしてその買い物にもまた当然のように同行したというE。Eは一体Mさん親子の何なんだとつっこみたくなるが、やっぱり彼もまた“家族”なんだろう。

遊びに来た娘たちが帰った直後は、日頃すっかり忘れている寂しさをどうしたって思い出して、つらくなる。いくら逃げ切ったと思っても、ふとしたときに度々姿を現すやっかいな孤独から都度Mさん親子を救い出したのは、間違いなくEをはじめとした周囲の友人たちだった。

この日Eが、Mさんと私にお手製の和風ペペロンチーノを振る舞ってくれた。にんにくと鷹の爪を炒めたオリーブオイルに、茹でたパスタをからめる。塩コショウ、それにほんの少しの醤油で味をつけるシンプルなスパゲティ。

「Eさんのスパゲティは妙においしいんだよ。俺にはとても作れない」

Mさんが嬉しそうに言うと、Eは一瞬照れたように笑って応える。

「別になんてことはないスパゲティなんだけどさ。なんといってもMさんはダイエット中だからね。俺はMさんのために必ず全粒粉のパスタを使うようにしてる」

それでも“1人より誰かといたほうがいい”

M邸にはE以外にも、日々たくさんの友人たちが入れ代わり立ち代わりやってくるという。大人の楽しみに最適化された最高の空間に魅せられて。また何より、人をすぐに信じ疑うことをしないMさんを、つい放っておけなくて。

心配したり、心配されたり、励ましたり、励まされたり。世話を焼いたり、焼かれたり。そうする中で、私たちは少しずつ心の傷を癒やしていく。

「この家に来るやつの中には、すっごく変なやつもいるのよ。仮に女の子が5人いれば、5人全員に嫌われちゃうような困った男もね。Mさんはさ、そんなやつともよく2人で飲んだりするの。だから俺、よくそういうことできるねってつい言ったら、“だって1人より誰かといたほうがいいじゃん”って、Mさんが言うわけ」

Eはどこかあきれたような、しかしそれでいて、Mさんへの深い愛情を満面ににじませた顔で言う。

厄介事を背負わされたり、裏切られて心に深い傷を負っても、それでも“1人より誰かといたほうがいい”。そんなふうに語るMさんの気持ち、私にも少しだけわかるような気がした。

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