とはいえ主役はサンタさん。サンタが赤い衣装になったのは、実はコカ・コーラの宣伝から、なんてことを庶民が知るわけもなく、プレゼントのためにスーパーやおもちゃ売り場はごった返します。キリスト教の神聖なお祭りは、今や完全に商業主義に利用されていると言っていいでしょう。
ただ、クリスマスは日本と違って、恋人と過ごす日ではありません。あくまで家族で過ごす日で、日本のように恋人同士でディナーに行くのではなく、家族で過ごす時間です。付き合っている人がいたら、その人を連れてくることはあるにせよ、家族で過ごすのが基本です。だからごった返すショッピングモールも、24日の夜は早く店じまいをし、25日はほとんどのところが閉店で、大きな駐車場はまるで飛行場のようにがらんとしています。
恋人と過ごすのは、12月31日の夜。カウントダウンや花火のイベントがあり、そちらは若者が中心です。年明けをカウントダウンで祝い、元日は大学のアメリカン・フットボールの有名なゲームを楽しみ(甲子園の高校野球といえば伝わるでしょうか)、2日からは仕事や学校が始まるのが普通です。正月とクリスマスの優先順位がちょうど日本と逆なので、家族と過ごすか、恋人と過ごすかが逆転するわけです。
性意識の変化とクリスマスの変貌
というわけで、日本にもアメリカにも、「クリスマスは恋人とディナー」なんて習慣なぞなかったのです。そうした風景に変化が見られるのは、1980年代初頭です。みなさんご存じのユーミンの「恋人がサンタクロース」は、1980年12月発売のアルバム「SURF & SNOW」に収録されています。スキー場のペンションで、このアルバムに入った歌を、何度ギターで弾いたことか……。
そして山下達郎の名曲「クリスマス・イブ」は1983年。さらにJR東海がこの歌をモチーフに「クリスマス・エクスプレス」のCMを流したのは1988年から1992年です。
私がやっと就職できた、30歳のクリスマス(1993年)! 札幌に住んでいた私は、当時の彼女が東京から来てくれるというので、この歌のCDをリピートしながら、いそいそとディナーの準備をしていました。すっかり踊らされていたことになります。アルペンがCMに広瀬香美を起用した「ロマンスの神様」も、まさにこの1993年です。
つまり、この頃になって初めて、「クリスマスは恋人と」という考えが広まるようになったわけです。「プレゼント何がいい?」と聞かれても返事ができない「消費社会」が到来していたからこそ、「帰ってくるあなたが最高のプレゼント」(1988年、上記JR東海のCM)というコピーは、ぐっと心に響くのです。
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