未曾有の酪農危機で牛乳再値上げが決定

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 明治乳業は、来年3月から牛乳の出荷価格を1リットル当たり平均10円値上げすると発表した。森永乳業と日本ミルクコミュニティも追随する見通しだ。

牛乳価格をめぐっては、今年4月に酪農家からの生乳買い取り価格が3円(1キログラム当たり)値上げされたばかり。しかし飼料価格の上昇を受け、来年3月にも10円の再値上げが決まっている。乳業各社は今年4月に出荷価格を平均10円値上げしたが、需要後退への懸念から販促費が増えた結果、実質2円しか転嫁できていないメーカーもある。明治乳業は今回の再値上げと同時に、希望小売価格の廃止も発表しており、「安売りが多く、希望小売価格は形骸化した」と説明する。スーパーも円高で価格引き下げ圧力を強めており、来年3月の値上げは最悪のタイミングといえる。

飼料価格は6割上昇

「飼料高による酪農家の窮状を考えるとやむをえない」と乳業各社は口をそろえる。事実、国内の酪農家を取り巻く環境は厳しい。トウモロコシなどの配合飼料価格は、2年前と比べて約6割も上昇。生産費に占める飼料割合は4割が採算ラインだが、6~7割まで上昇したことで「1年前から貯金を切り崩して生活している」(千葉の酪農家)。特に首都圏や関西では飼料自給率が低く、多くの酪農家が赤字にあえいでいる。

ほぼ全量を輸入飼料に頼る沖縄では、今年に入り酪農家の1割が廃業した。その結果、「今夏は生乳不足で牛乳が品切れした」(沖縄県庁畜産部)。前代未聞の事態を受け、乳業各社は11月から生乳買い取り価格を15円引き上げた。

沖縄の事例は極端としても「(生乳買い取り価格を)10円上げても赤字を補えず、見切りをつけて廃業する酪農家もいる」(関東生乳販売農業協同組合)。トウモロコシの国際相場下落を受け、年明けから飼料価格は2年ぶりに下落する見通しだが、累積赤字の一掃には時間がかかりそうだ。

しかし値上げは両刃の剣だ。少子高齢化で牛乳消費量は右肩下がりで、値上げは一層の後退も招く。苦肉の策として、すでに一部メーカーは、牛乳より数十円安く生産できる低脂肪乳を増やしている。低脂肪乳は生乳から抽出した脂肪分で、生クリームやバターを生産できるメリットがある。だが北海道での生産量が多く、「地産地消のバランスが崩れ、都府県産の生乳需要が縮小するのでは」(生産者団体)と波乱含みだ。

生乳が余れば、値下げ圧力は高まる。さらにWTO(世界貿易機関)交渉が決着すれば、乳製品の輸入関税が大幅に引き下げられる可能性が高い。日本の酪農を取り巻く環境は深刻さを増している。

(前田佳子 =週刊東洋経済)

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