55歳「孤独死」の危機から立ち直った彼の告白 妻との死別による悲嘆を救ったのは人だった

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マンション理事長にあいさつに行くと、住民が高齢化しており、理事のなり手がいなくて困っているという話になった。雪渕さんは請われるがまま、すぐに理事になることを快諾した。その後、理事長に就任することになる。

マンションの理事長になることで、漏水などの相隣トラブルに介入するなどそんな役割の中で、住民の顔を少しずつ覚えていった。それから不思議なことに、雪渕さんが収集した絵を見たいと、町内会や仕事で知り合った人たちが家を訪ねてくることが多くなった。雪渕さんの家は仕事場でもあり、打ち合わせなどで毎日誰かしらと話をする。

男おひとりさまとしての不安はつきものだが、今はとても幸せだという。

「もし自分に何かあったらどうするんだろうという不安はありますよね。1人暮らしならよくあることで、風邪をひいて寝込んでしまって、誰も面倒見てくれなかったらどうしようと。若ければいい、寝てれば治るから。でももう若くないですし、このまま死んでしまったらどうしようという感覚になることはありますよね。

マンションの中にも、自分と同じ1人暮らしの方がいるんです。理事会でそういった方を見守るために、2日に1回でもピンポンする仕組みを作る働きかけをしたいと考えています」

雪渕さんはこのように、自らの病気という体験を経て、積極的に地域とかかわるようになっていった。「もし妻が健在で今も会社員を続けていたら、地域との関係なんて考えもしなかった」と雪渕さんは話す。

あえて選んだ「面倒くさい」生き方

人との関係を自ら作っていくこと。それが、妻との死別や自らの病という経験の中で、雪渕さんが自ら望んだ「面倒くさい」生き方だった。

マンションの理事長を務めたことで、住んでいる地区の町内会とのパイプも持つことができた。そのうちに地元町内会の副支部長という役職も回ってくるようになった。さらに今、区の民生委員の話もきている。民生委員自体が高齢化していて、同じ人間が何期も務めることになり、担い手が少なくなってきているのだ。

それにしても、これだけの役割を1人で引き受けて、さすがに煩わしさはないのだろうか。

「その面倒くさい役割を自分で作っているんです。これだけいろんな役をやっていると、どうしてもいろいろな人とかかわらなきゃいけないんですね。そういうふうに人とかかわることを作っておかないと、自分の性格柄、人とコミュニケーションを取るということをしなくなると思うんです。だからそういう仕組みを強制的に自分で作ってるんですよ」

雪渕さん自身、人と行動するのが特段好きというわけではない。人がいっぱいいるところは苦手だし、そもそも群れることも苦手。1人でいる時間がないと嫌だし、自分の時間は趣味に没頭したいタイプ。人とワイワイやることが好きというわけでもない。大人数の集まりは元来苦手なのだ。

雪渕さんは、「寂しがり屋な面もあるが、1人でいる時間をこよなく愛するというメンドクサイ性格なのだ」と、自嘲ぎみに笑いながら説明してくれた。それでも雪渕さんが、地域の活動にかかわろうとしている理由はなんなのだろうか。

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