無職の若者の実態を調査してわかったこと 『若年無業者白書』を作ったわけ(下)
工藤:108人の賛同していただいた方からは、「超重要」「期待している」というコメントもいただきました。日本の大多数の人は、「若年無業」というマイナーかつマニアックな問題には関心が低いと思っていましたが、白書製作に共感し、資金を投じてくださる方が、こんなにたくさんいらっしゃったこと、それがうれしかった。
今回、マイナーな社会課題を扱うNPOと若き研究者がクラウドファンディングで『白書』を作れたことは、NPO業界にとっても、若き研究者にとっても「自分たちで資金調達し、価値を創造することができるのではないか」という期待につながればいいと思います。
西田:クラウドファンディングの成功は、工藤さんの日頃の“人徳”が大きいと思いますね。「工藤さんが言っているから1万円寄付しよう」となったのではないでしょうか。安易に誰でもできるわけではありません。僕ひとりでやっても集まらないでしょう(笑)。
ただ、今後、プロジェクトのファウンダーたちが、十分に「共感」を集められる人たちだったとすると、可能性はある。対象の事業自体になじみがなかったとしても、十分な社会からの信頼や共感を集められる人なら、資金を集められるかもしれない。
企業とコラボレーションも始まっている
工藤:『若年無業者白書』は、「意図がない」ということが重要でした。「社会に対して強烈にアピールしよう」「あの政策を作ってやろう」というゴール設定はしていません。自分たちの持つデータをまとめて出した。そしてアカデミアの力をお借りすることで、一定程度の「中立性」は担保できたのではないでしょうか。僕らだけで調査をしたら「営業資料じゃないか」という気持ちを持たれる方もいらっしゃると思いますし。
西田:そのとおりだと思います。とはいえ、中立だからこそ、「どう利用すればいいのか」「どう政策提言に結び付けていくのか」というデータの効果的な使い方となると、わからない人が多くなるという課題も抱えていると思います。そもそも数字が多く、読み物としては、かなり高度なリテラシーがないと読めないようだ、ということは個人的な反省でもあります。だからこそ、どういう政策が必要か――など、別コンテンツで用意する必要があると思いますし、ニーズがあるなら取り組んでみたいと思いますね。
工藤:今回、『白書』を制作したことで、企業側からも自分たちのリソースを生かして、共に無業の若者を支援していきましょうと声をかけていただきました。日本マイクロソフト社とは、無業の若者のITスキル向上のため「若者UPプロジェクト」に取り組んでいますが、より詳細な調査を、というお話があります。日本IBM社とは、より効果的な支援の提供を目指して、当該データと別のデータを突き合わせることによる相関ルール分析を共同で行わせていただきます。
現在、個別のデータは各事業所がバラバラにExcelやAccessで集計しているのですが、アクセンチュア株式会社コーポレート・シチズンシップ「若者の就業力・起業力強化」チームにより、就労における標準モデルの設計と、より実用性と汎用性の高い基幹システムの構築に力を貸してくださることになりました。これらの動きは「白書」という形ではありましたが、よりよい支援をするためのデータ集計や分析をしていきたい気持ちに、共感をいただいた結果ではないかと思います。また、このたび新たに、大手スーパー西友社からの助成金により、経済的余力に乏しい無業の若者に、育て上げネットの就労支援プログラムを無償で提供する仕組みを創設することになりました。プログラム受講の一環として、西友店舗での職場体験の機会も設けていただく計画になっています
すべてが白書制作の結果であるというわけではありませんが、非常にニッチで理解しづらい無業の若者について、定量化、数値化したこと。私たちの社会が解決していくテーマであることを多少なりとも表現できた。だからこそ、こうした企業のお力を借りられた事例が生まれてきているのではないでしょうか。
若者無業問題は、世界的に重要な問題になっています。スペインでは若者の失業率は40%と高く、独立心が強いといわれたアメリカですら、「引きこもり」状態の若者が出てきているそうです。韓国でも若年無業は大きな社会テーマとなっています。だから、『若年無業者白書』を英訳して、世界に発信してみようと思っています。「何がしたいのですか」と質問されると答えに困りますが、何が起きるかみてみたいのです。
(撮影:今井 康一)
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