無職の若者の実態を調査してわかったこと 『若年無業者白書』を作ったわけ(下)

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興味深かった「退職理由」のデータ

工藤 啓(くどう・けい) NPO法人育て上げネット理事長 1977年東京生まれ。成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科を中退後、渡米。帰国後、ひきこもり、ニート、フリーターなど無業の若者の就労支援団体、育て上げネットを設立。2004年5月NPO法人化、現在に至る。内閣府「若者の包括的な自立支援方策に関する検討会」委員、厚生労働省「キャリア・コンサルティング導入・展開事例検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、立川市教育委員会立川市学校評議員等を歴任。 著書に『大卒だって無職になる“はたらく”につまずく若者たち』(エンターブレイン)、『NPOで働く』(東洋経済新報社)、『16才のための暮らしワークブック』(主婦の友社)、『育て上げ ワカモノの自立を支援する』(駿河台出版社)、『「ニート」支援マニュアル』(PHP研究所)がある

工藤:今回、相関関係のデータが出たことでわかったことは、“暗黙知”として理解していたことが実証されたことです。特に興味深いデータは、「退職理由」です。支援現場では「その人」を理解するうえで、本当に大切にしている情報項目なのですが、国の調査結果にはない項目でした。退職理由を積み上げていくと、「求職型は『契約期間が切れた』『労働条件が悪くて辞めた』という人が多い」「非求職型は『上司との関係が悪くて辞めた』『精神的な不調を抱えて辞めた』という人が多い」ということがわかりました。つまり、雇用対策、求職者支援にかかるマッチングの前にやらなければならないことがある――ということもわかった。

一方で、定量化したことで「個別性」と「データ」のジレンマにも陥りました。現場で人に対して支援をしている人間は、当然、「情熱」「思い」を持っています。たとえば、「Aさんという人をなんとかしよう」と思ってやっている。そのAさんの個別性を「ゼロか、イチか」で置き換えて、積み上げたデータとして判断材料を作っていく。そのことに、あまりいい気はしない支援者がいることも理解できます。

西田:現場の人が「1対1」の個別性を大切にすることは、まったくもって当たり前ですね。だから、現場からの「違和」の表明には、今後、もっと丁寧な説明などで対応させていただきたいと思います。とはいえ、『白書』の役割は、頭の隅にデータを意識してもらい、支援現場で生かしてもらうということはありえると思います。つまり、 全体の傾向がわかれば、個別の対応をするときに「質」が変容する可能性がある。繰り返しますが、現場の支援の方法は、データから押し付けていくことではないと思っています。

「クラウドファンディング」せざるをえなかった

工藤:今回、『若年無業者白書』はクラウドファンディングという手法で、資金調達し、制作しました。なぜ、クラウドファンディングを使ったのかという、と理由は簡単で、調査研究助成費に応募したものの、あえなく落選したからです(笑)。今回のタイミングで、国の調査や予算を見たのですが、日本はこれまで若者支援の歴史がなく、若者雇用問題が想定されていなかったので、重点項目になっておらず、既存予算を活用する道もほとんどありませんでした。

そこでクラウドファンディングサービスの「READYFOR?」を使い、資金調達しました。人が動くものなので人件費などのコストがかかるのですが、そこは持ち出ししました。西田さんも了承してくれたのはありがたかったです。だから、『白書』を製作するための最低金額である35万円を目標金額に設定し、公開しました。ありがたいことに8時間で目標金額を達成し、最終的に108人から約90万円を調達させてもらいました。

次ページ企業とコラボレーションも始まっている
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