美術界の巨匠「蔡國強」と福島の意外な関係

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──ド素人の志賀さんと蔡さんは互いにどんな存在なのでしょう?

ただの友情ではないんじゃないか。志賀さんは「俺はアートなんかわかんね」って言うだろうけど、実はすごいクリエイティブで、アーティストなのかもしれない。たぶん蔡さんもそういうところにひかれるんじゃないかな。ある美術館の展示に志賀さんが来たとき、蔡さんが「ここにベンチがあるといいですね」って言うと、「じゃあ作ってやっか」と志賀さんがバーッと作って、そしたら「こういうのがいいと思っていました」って。

志賀さんは創作のパートナーであるし、一緒にいるのが面白い人なんでしょう。志賀さんも同様で、本当に少年みたいに2人でキャーキャー言って作ってるみたいな(笑)。蔡さんは世界中の美術館からたいへんリスペクトされていて、展覧会を開催したくてもなかなか呼べないほどの人なんだけど、いわきに戻るとその仮面が取れる。

誰でもそれぞれの物語がある

──この物語は、蔡國強という世界的アーティストを陰で支えた男たちの話でも、蔡さんと志賀さん2人の成功物語でもないんですね。

そうです。志賀さんと蔡さんが軸にはなるけど、周りの人たちにもそれぞれの物語があり、それぞれが大切な存在だということを描きたかった。人と人が出会うことで予想もしなかった物、1人ではできない物が生まれる。群像劇的な、いわきという場所を舞台にした大きい物語にしたいと思いました。

蔡さんの作品のコンセプトでもある、誰もがこの社会に必要な登場人物で、一人ひとりが役割を持っているということは、私も強く感じています。今の社会は他者に対する寛容性が失われてますよね。そこに危機感を持ってる。

それから、私の母がいわき出身というのもあって、いわきに思い入れがあった。福島県民だというだけで差別や偏見の体験をしたり、日々苦難に立ち向かっている人も大勢いる。その中でもこんなすばらしい、希望に満ちた話がある。原発事故で大変、というのが小さく思えるような物語を描きたかった。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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