「暴言指導」を"必要悪"とする中高部活動の闇 「再発」続くバレーボール界は変わるか

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不来方高校の顧問は責任を問われておらず、近々にも指導の現場に戻るとも噂されている。

「顧問がまた指導現場に戻れば、3人目、4人目の被害者が出る」

そう焦りを募らせる父親に対し、「急がなくてはいけないこともわかっている」と八田さんは苦しそうに話した。

解決に進まない理由の1つが、部活の現場における暴力、暴言を「必要悪」とする考えが、学校や指導者、さらに保護者サイドにもあることだ。暴言や無視といったパワハラが自殺につながることを理解する人は多くない。

岩手県教育長は「強豪校には(暴力を伴う指導が)ありがちだ」と発言。さらに、学校内の調査で生徒がパワハラを指摘しているのに「そのほか一部の生徒がいい指導だったというコメントもあるので問題ない」と話したことが、県議会の12月の議事録に残されている。

「苦難」を乗り越えられられない子が悪いのか

加えて「自殺する子は弱い子」という偏見も根強い。

「苦難を乗り越えられるような教育をしていかなければいけない」

不来方高校のホームページには、生徒の自殺に際し校長からこんな訓話が掲載された。「乗り越えられない子どもが悪いということか!?」とすぐさまサイトは炎上。文章はすべて削除されたが、遺族はこうやって心ない言葉を浴びる二次被害を受けていることも訴えた。

それらの話に、八田さんはただただ耳を傾け続けた。1時間10分が過ぎていた。

暴力とパワハラから脱却できず苦悩するバレーボール協会。暴力とパワハラに息子の命を奪われた遺族。間接的ではあるが加害者と被害者の立場に置かれた両者は、同じものに翻弄される互いの事情を共有したようだった。

両親をサポートする草場弁護士は涙をこらえながら、八田さんに訴えた。

「遺書に、バレーボールは嫌いだった、というくだりがあります。先ほど(試合のビデオを)お見せしましたが、あんなに楽しそうにやっていたのに、嫌いだという感情が残ってしまった。かわいそうでたまらない。(遺書の)最後のほうには、必要ないと言われたと書かれている。間違いなく顧問のパワハラが彼を追い込んでいる。今回、八田さんがこの事件に向き合ってくださって、仙台まで来てくださったことに感謝したい」

桜宮事件を契機に、肉体への暴力、つまり「体罰はダメ」という認識はスポーツ界に広がった。だが、その学びは、暴言をはじめとするパワハラ行為までは及んでいない。

そんな学び足りない大人たちが埋められずにいた「落とし穴」に、不来方の17歳は落ちてしまったように見える。

スポーツの不祥事が続き人々のパワハラへの意識が高まったからか、バレーボール以外にも野球やバスケットなど高校スポーツでの暴力指導報道が引きも切らない。

「今までと同じことをしていてはダメなんです」

八田さんの絞り出した声は、スポーツ界全体への警鐘でもあるだろう。

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文藝家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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