「文系は理系よりも使えない」風潮にモノ申す 優秀な経営者は「小説」も「帳簿」も読める

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だが、全米で中途採用の高年収者(上位10%)だけに絞って見ると話は変わってくる。11位になってようやくMITが顔を出す。1位から10位までは、教養学部系に強い学校が名を連ねているのだ。イェール大学やダートマス大学といった学校が、年収中央値で首位(30万ドル以上)を獲得している。理系教育を中心とする大学のうち、中途採用の高年収者(上位10%)に食い込んでいるのはカーネギーメロン大学だけだった。

この調査では、専攻についても同様の傾向が見られた。中途採用者の専攻別の給与ランキングでは、全般的にコンピューター工学や化学工学が上位ランクされていて、上位20科目に人文科学系はなかなか見当たらない。

ところが、全米で最も成功している年収上位10%に着目すると、コルゲート大学やバックネル大学、ユニオン大学など純粋な教養学部系大学を中心に、政治学や哲学、演劇、歴史といった専攻ががぜん突出しているのだ。

このデータからわかるのは、理系のトレーニングを受ければ、基本的には新卒就職時に人並みの職に就き、よい収入を手にしていることだ。だが、突出した高収入者、つまりは経営を取り仕切るような立場の人々、ガラスの天井を突き破る力のある人々、世界を変えるような人々は、教養学部系の学位を持っている傾向が強い。シリコンバレー界隈や政治家、さらには教育界の多くの指導的立場にある人々が口々に主張している内容とずいぶん違うことに驚くだろう。

もっとも、グローバル企業や世界屈指の有力機関などに在籍経験が少しでもあれば、なるほどと思えるのではないか。世界の最高経営幹部や役員のカウンセリングを20年近く手がけてきて気づいたことだが、本当に成功しているリーダーは、好奇心旺盛で幅広い教育を受けていて、小説も帳簿も読める能力の持ち主なのだ。

経営者に幅広い「教養」は必須だ

たとえば、グローバルな保険会社の将来を考えたり、ある法案の政治的・社会的影響を吟味したりする場合に、単純極まりないデシジョン・ツリー(意思決定過程を示す樹形図)やスプレッドシートの数値だけで答えにたどり着けると本気で思っているだろうか。2007年2月、リーマン・ブラザーズは経営状態が帳簿上は良好で、時価総額が過去最高の600億ドル近くに迫っていた。

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