「文系は理系よりも使えない」風潮にモノ申す 優秀な経営者は「小説」も「帳簿」も読める
ところが、それから1年ほどで株価は93%も急落し、破産申請となった。かくも数値データは複雑な現実をあいまいにぼやかし、結果、リーマン・ブラザーズを破綻に至らせた。2003年から2004年にかけて同社は、住宅ローン会社5社を買収している。その中には、通常の融資審査の通らない人々に貸し付けを行う低所得者向け住宅ローン(サブプライムローン)会社2社も含まれていた。住宅購入ブームを追い風に過去最高の収益を上げていたが、返済能力の審査はあってないようなもので、何も考えずに融資を受ける人々が増加していった。
だが、こうした不良債権は債務担保証券(CDO)と呼ばれる複雑な金融商品のかたちで証券化され、正常な融資の陰に隠れてしまった。もっとも、どんな経営者でも幹部でも、その気になれば自らの足と目で現実を直視することができた。
そもそも、サブプライムローン利用者の大半が支払不能に陥ることは不可避の状況だった。2008年9月の時点で老後の資金を株式投資に回していた人々にとっては誠に残念なことだが、現実世界のデータに目を向けようと考える金融機関の経営者は皆無に近かった。思考を止めたときに、その影響をもろにかぶるのはわれわれの知性だけではない。ビジネスも教育も政府も、老後の蓄えまでも危機にさらされるのだ。
幅広いテーマや分野に求められるスキル
こういう懸念を口にしているのは何も筆者に限ったことではない。これからの時代に対応するためには、しっかりとした教養教育を受けた人間の思考能力が求められると、著名なリーダーの多くが声を大にして訴えている。ロッキード・マーティンの元会長・CEO、ノーマン・オーガスティンは、2011年にウォール・ストリート・ジャーナルへ寄稿し、初等・中等教育での人文科学教育の基盤強化を求めて、次のように主張している。
「国家や文明についてさらりと話して終わりにせず、歴史教育があって初めて情報を咀嚼、分析してまとめあげ、そこから得られた結論をはっきり表現できるクリティカルシンキング(批判的思考)の持ち主が育まれる。幅広いテーマや分野に求められるスキルである」
プロクター・アンド・ギャンブルの元CEO、A・G・ラフリーは、今日の複雑な経営環境の中で事業を成功させるためのアドバイスを求められて、ひと言、「教養の学位を取りなさい」と答えている。
ハフィントン・ポストへの寄稿でラフリーは、次のように述べている。
「芸術、自然科学、人文科学、社会科学、言語を学ぶことで、知性が精神的な器用さを育み、新しい考え方にオープンな人間になる。これは、つねに変化する環境の中で成功を収める条件でもある。速球力と冷静な判断力で切れ味の良い投球を見せることができなければメジャーリーグで勝つ投手にはなれないように、有力な経営者を目指すのであれば、幅広い教養を身に付け、あいまいさや不確実性に上手に対応していく力が欠かせない。幅広い教養課程を修めれば、概念的思考、創造的思考、批判的思考(クリティカルシンキング)の力が伸びる。これは、心を鍛え抜くうえで欠かせない要素である」
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