「文系は理系よりも使えない」風潮にモノ申す 優秀な経営者は「小説」も「帳簿」も読める

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2016年のアメリカ大統領選を目指して共和党の指名争いを展開していたジェブ・ブッシュは、2015年に開いたタウンホール・ミーティング(地域住民との対話集会)の席上、大学で心理学のような分野を専攻していたらファストフード・レストランあたりで働くことになると聴衆に語った。同じ年、日本の文部科学大臣は、国内の大学に人文・社会科学系の学部を廃止するか「社会的要請の高い分野への転換」を迫った。

彼らに言わせれば、文学や歴史、哲学、芸術、心理学、人類学といった文化を探究する人文科学は、もはや「社会的要請」に応えられないというわけだ。さまざまな国民性やそれぞれの世界を人文科学的見地から理解する行為に対して、役立たずの烙印が公式に押されたのだ。

「教養あるリーダーシップ」の欠如

こうした風潮の中で、筆者は読者にどうしても届けたいメッセージがあり、いても立ってもいられない思いでペンをとった。それは、文化的知識の価値は間違いなくあるということだ。

この文化的知識、つまり人文学的な思考で育まれた知を疎かにすれば、われわれの未来は極めて危うい状況に置かれることになる。確実なデータと自然科学的な手法のみに偏り、人間の営みを物理法則や機械的メカニズムだけで説明しようとしていると、自然科学の法則では割りきれないあらゆる形式の知識に対して、われわれの感度が鈍ってしまうのだ。書籍や音楽、美術、文化などは、複雑な社会的な背景や文脈に触れる機会を与えてくれるが、こうしたものとの接点を失うのである。

これは、象牙の塔の中だけで議論されるような深遠なテーマではない。現に、筆者の本業であるコンサルティング業務に携わっていると、この現象がもたらした影響が嫌でも目に入る。大手企業の上層部には、「教養に基づいたリーダーシップ」が欠如しているのだ。

筆者がこれまで会った経営幹部を見ていると、世界観が孤立している方々があまりに多いのである。顧客や従業員との人間的な接点を失っているがゆえに、現実世界の数値化やモデル化にも失敗しているのだ。こうした幹部は日常の時間も切り刻まれて細分化されているから、そもそも乱雑に見える実世界のデータの森をさまよい歩く暇などないと思っている。それどころか、実際の問題点を咀嚼することもせず、いきなり問題解決のプロセスに飛びつき、結論を急ぐ。

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