上意下達が大嫌いな日本人こそ「民主的」だ

トップダウンを強制しても成功できない理由

中野:となるとトップダウンのどこがいいのかわからなくなってくる。大学改革もトップダウンへの改革で失敗しているようですね。「トップダウン」などと言わずに、初めから「上意下達」とはっきり言ってくれれば、道を間違えなかったものを(笑)。

日本的価値観を抑圧してきた近代日本

佐藤:中野さんは今年、『日本の没落』という本を出されましたね。

中野:『日本の没落』 は100年ほど前に書かれたオスヴァルト・シュペングラーの『西洋の没落』を踏まえた文明論なんです。

『西洋の没落』は西洋世界における経済成長の鈍化、少子化、民主主義の死といった状況を予見していますが、それはまさに日本の今日の問題に等しい。彼は西洋社会の諸問題の原因として知性の肥大化と暴走を挙げています。

人間には知性にあたる「覚醒存在」と土着的な生活感にあたる「現存在」の両面がある中で、現代は、知性に偏り、土着的な生活感を切り捨てたことで、文化が没落したというのです。

施 光恒(せ てるひさ)/政治学者、九州大学大学院比較社会文化研究院准教授。1971年福岡県生まれ。英国シェフィールド大学大学院政治学研究科哲学修士(M.Phil)課程修了。慶應義塾大学大学院法学研究科後期博士課程修了。博士(法学)。著書に『リベラリズムの再生』(慶應義塾大学出版会)、『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』 (集英社新書)、『本当に日本人は流されやすいのか』(角川新書)など(写真:施 光恒)

:拝読して共感を覚えました。私も今の日本の停滞は、土着的な無意識の部分を忘れてアメリカ的価値観で頭でっかちに自己理解・自己批判し、やみくもな改革に突き進んだ結果ではないかと感じているんです。

佐藤:構造改革のせいで日本の会社のあり方はすっかり変わったと、施さんの本で知りました。非正規雇用が増えたせいで、社員同士の連帯感や一体感がなくなり、職場の雰囲気が殺伐としてきた。ボーナスの話題など、もらえない人も多いのでタブー。社員食堂や、福利厚生施設の利用にしても同様とか。

:改革は意識に基づいて行われるもので、そこにはダイバーシティ、グローバル、新自由主義など、流行の語彙や理念が取り入れられています。しかし日本人の動機付けの源泉はそれとは違う無意識の部分にあって、そこを無視してしまうと仕事の充実感や人生の幸福感は消え、閉塞感が蔓延してしまう。それが今の日本ではないでしょうか。

中野:今も続く新自由主義改革の源流は、1990年代初めのバブル崩壊後に噴出した、日本的経営や日本型資本主義に対する全否定ですよね。僕は、当時そうした急激な変節を目の当たりにして、あきれ返りました。

日本経済が好調なときには「日本の文化が優れているからだ」と言い、バブルが崩壊して景気が悪くなると今度は「日本の文化がだめだからだ」と世論が一転した。日本がアメリカをキャッチアップしようとしていた1950年代、1960年代に主張が戻ってしまった。

変な話で、もし日本文化が優れていたというなら、景気が悪くても守っていくべきでしょう。「日本文化は、経済的な成功につながるから優れた文化だと言っていたにすぎなかったのか」と思いましたね。

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