上意下達が大嫌いな日本人こそ「民主的」だ トップダウンを強制しても成功できない理由

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柴山:客観的に見ると、あの一連の出来事ほど日本的なことはない。大河ドラマの「西郷どん」にしても、西郷隆盛は下の人たちの気持ちを酌んで上に文句を言うというスタイルで描かれている。そのせいで島流しにされたりするけれども、おかげで今も人気がある。一方、大久保利通は非常に有能で先見の明もあるのに、現場の意見を聞かず上意下達で物事を進めるタイプで人気がない。

:日本人はそういう態度に反発するんです。小池百合子都知事の「排除します」という上から目線の発言も猛反発されましたね。

柴山:ボトムアップを否定してトップダウンにしようというのは、サッカーから国家の運営に至るまで、日本で嫌われる上意下達に変えようとしているわけですね。

「日本型組織」はトップダウンかボトムアップか

中野:「日本の組織は上意下達だから駄目だ」とか言う人が、「経営はトップダウンによる迅速な意思決定が必要だ」などと平気で言う。しかし、「上意下達」を英語にすれば「トップダウン」でしょう(一同爆笑)。

柴山 桂太(しばやま けいた)/京都大学大学院人間・環境学研究科准教授。専門は経済思想。1974年、東京都生まれ。主な著書にグローバル化の終焉を予見した『静かなる大恐慌』(集英社新書)、エマニュエル・トッドらとの共著『グローバリズムが世界を滅ぼす』(文春新書)など多数(撮影:佐藤 雄治)

柴山:トップダウン、ボトムアップといっても、組織運営という点で見ると長所もあれば短所もある。トップダウンは意思決定が速いという利点があるけれども、日本ではうまくいかないことが多い。日本では下の意見を上が聞いてやり、現場の人が自分の職務に責任を感じることが大切と考えられています。アメリカ企業では現場の作業員は「給料分働けばいいや」となりがちですが、日本の組織で意見を聞いてもらえないと現場の士気が下がってうまくいかない。

中野:かつてソニーで働いていた人から聞いた話ですが、創業世代の井深さんや盛田さんがいた頃は、社長室はがらんどうで誰もいなかったそうです。それは社長が現場に出ていって声をかけていたから。大賀さんは社長室から出なくなった。出井さんになったら、みんなが社長室に入るようになったと(笑)。その人は「出井さんはアメリカ型のトップダウンを志向してソニーを壊した」というんです。

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