「今の子は未熟」と歎く大人に欠けている視点 「手がかかる」のは本当に悪いことなのか?

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鳥類になるとさらに手がかかります。卵を温めてふ化させ、ヒナにエサを運びます。飛び方やエサの取り方を教えるものもあります。魚類では、子どもに泳ぎ方を教えたりエサの取り方を教えたりすることはありませんが、鳥類ではそれが必要になるのです。

哺乳類になるとはるかに多くの時間と手間がかかります。乳を飲ませたりエサを食べさせたりするだけでなく、毛づくろいしたり抱っこしたりするものもあります。さらには、狩りの仕方を教えたり、仲間集団における共同作業の仕方や守るべきルールを教えたりするものもあります。

このように、生物が進化して高等になればなるほど、子育てに時間と手間がかかるようになるのです。ということは、今の子どもや若者が手がかかるようになったということは、人類がよりいっそう進化して高等生物になりつつあるということなのかもしれません。

「人間五十年」が約1.6~1.7倍に

さらに、人間について詳しく見ていくと、時代が進むにつれて寿命が延びているという事実もあります。織田信長が桶狭間の戦いの前に舞ったといわれる「敦盛」という舞の中には、「人間五十年……」という一節があります。当時の実際の寿命については諸説ありますが、一般的には50年と考えられていたのです。それに対して、現在の日本人の平均寿命は、男性が81.09歳、女性が87.26歳です。これは当時の約1.6~1.7倍です。ということは、成熟までの時間も1.6~1.7倍になるのが自然というものです。

これは、50センチのゴムひもを80センチに伸ばすのと同じです。ゴムひもは、右側も真ん中も左側も同じように伸びます。真ん中だけたくさん伸ばそうと思ってもそうはいきません。人生も同じです。人生の最盛期である真ん中だけ伸ばすことはできないわけで、成長期も老年期も伸びるのです。こういった大きな変化の中で、自然の成り行きとして、今の子どもや若者たちも手がかかるようになってきているのです。

ところで、寿命が伸びることについて、次のように言う人は多いと思います。「寿命が延びれば、病気やケガによる治療費がかかる。貯蓄も減り年金も減るばかりで、どうやって生きていくのか? 老人が増えれば社会保障費も増える。そのほかにも……」。もちろんそのとおりで、問題はいくらでもあります。でも、その反面よいこともたくさんあるのです。

そもそも、せっかく生まれてきたのですから、長く生きられるのは生物として喜ばしいことです。特に、真ん中の最盛期が伸びるのはすばらしいことです。好きな趣味に取り組むとか読みたい本を読むなど、自分がやりたいと思う楽しいことがいっぱいできます。また、たとえば、科学者たちが最先端で研究できる期間が10年延びれば、人類の科学が大きく進歩します。芸術家や職人も、自分の道をより深く極められるようになり、人類の宝物といえるような傑作をたくさん生み出してくれるでしょう。

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