「インスタ映え」にイラつく若者たちの新展開 「いいね!」獲得への道はより複雑・高度に

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大学生のFさんは「SNSを見てくれている知り合いに、裏で何を言われているか気になります」と語ってくれました。他人の目を気にして、嫌われないように慎重にインスタグラムを投稿していることがわかります。

SNSの投稿を見る際には、誰しも斜に構えがちです。だからこそ、着飾った非日常的な投稿は気にさわるのでしょう。

ブランド物・旅行・高い食べ物などを購入し、オシャレに見えるように配置にこだわり、さらに加工して、徹底的にインスタ映えさせる――。これはある程度お金や時間に余裕がある人にしかできないことです。そして、ダメな部分は見せないので、隙がありません。そのためお高くとまっている・手の届かない印象を与えてしまいます。身近な人がそのような投稿ばかりしていると、一部ですが、嫉妬を感じたり毒づいてしまう人も出てきます。

都内女子大生のGさんは「あまりにもブランド物や高級レストランばかり載せているのを見ると、もしかして見栄を張っているだけのセレブ気取り? パパ活?と思ってしまいます。何となくイラつくから『いいね!』しないです。こういった投稿を見て、女子会のネタにして盛り上がっています」と答えてくれました。

盛る、映えるを意識し尽くした投稿は、「高慢だ」「嫌みったらしい」「一般人のくせに気取っている」「お金持ちぶっている」「ナルシストでイタい」と批判的に思ってしまうようです。

一方、だからといって気取りすぎない日常的な投稿は「汚い」「ダサい」と思われます。それは「いいね!」したい投稿ではないのです。そのため、非日常・日常のどちらかに振り切りすぎない「程良い」投稿が好まれているのでしょう。

原田の総評:自慢の仕方が変わっている

SNSによって友達の数は格段に以前より増えたし、そのつながっている多くの友達に日常的に何かをアピールする場もできた。一方、あまりに直接的に自慢すると、それだけ多くの人に批判をされたり、うざがられる機会も格段に以前より増えた……。

こうした矛盾や葛藤の渦中にあるのが今の若者たちと言えます。2015年に筆者らは『間接自慢する若者たち』という書籍を出しました。この本はこうした矛盾に置かれるようになった今の若者たちが、直接的・ストレートな表現ではなく、間接的・婉曲的な表現を駆使し、自慢をするテクニックを身につけ始めた、という内容のものでした。

それから数年経ち、若者たちの間接自慢が、インスタ上でも見られるようになり、それが”現時点”では「デイリージェニック」ということなのだと思います。”現時点”と言ったのは、この若者たちの間接自慢の手法は、とても変化のスピードが速いからです。

読者の皆様もぜひインスタ上での若者たちのデイリージェニックに注目して、今後の変化も追っていただきたいと思います。

原田 曜平 マーケティングアナリスト

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はらだ ようへい / Yohei Harada

1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年よりマーケティングアナリストとして活動。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『新・オタク経済』『寡欲都市tokyo』などがある。YouTubeはこちら

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