30~40代の「孤独死」が全く不思議でない事情 自身の健康を悪化させる「緩慢な自殺」の正体

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この研究結果は、あくまで高齢者に絞った内容になっているが、セルフ・ネグレクトは高齢者の問題だけではないと井上さんは力説する。

「高齢者はまだいいんですよ。65歳以上だったら、介護保険制度があるので、何らかの形で地域包括の方や、民生委員の方がコンタクトを取りに行くんです。民生委員の訪問などは頻繁ではないかもしれませんが、その中で何らかの異変に気づいてもらえるきっかけにはなる。何らかの兆候が発見されて、介護サービスにつなげられる可能性がまだあるんです」

むしろ難しいのは65歳未満だという。井上さんは例を挙げる。例えば、50代でリストラされて、失業した男性がふとしたきっかけでお酒に手を出してしまう。そして、そのまま酒浸りになり、アルコール性肝障害にかかってしまう。しかし、賃貸アパートということもあり、両隣と付き合いのないまま男性は孤立。行政のサポートからはあぶれているし、仮に亡くなったとしても、まったく発見されないため、孤立死してしまう。

リストラや配偶者との離婚や死別から、セルフ・ネグレクトになって孤独死するといったケースは、確かに特殊清掃の現場でもよく見られた。

リストラは、誰にだって人生の一大事だし、離婚や死別なんていったら、落ち込むどころではない。しかし、それらはいつ訪れるかもわからない。そのぐらい私たちにとっては身近な出来事だ。セルフ・ネグレクトに陥っても、福祉の網の目にはかからないのが、より一層この問題を見えなくしている。

団塊ジュニア、ゆとり世代は要注意

孤独死の危険が高いのは、団塊ジュニア、そして、ゆとり世代だ。30~40代の働き盛り、まさに就職氷河期世代で、非正規でずっと生きてきた人も多く、職場の人間関係も乏しい。金銭的に苦しいため、結婚もできない。まさに、この人たちは孤独死予備軍である。さらに、内閣府の調査で70万人といわれる引きこもり(予備軍は155万人)も、すでにセルフ・ネグレクトと言えるケースもあるだろうし、身の回りの世話をしてくれる両親がいなくなったときに、セルフ・ネグレクトから孤独死に陥ることも十分に考えられる。

セルフ・ネグレクトには、介入しづらい。そもそも見守りなどのシステム自体もない高齢者以外は、介入の前に存在の発見さえも難しいことがある。

『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

それこそ孤独死してから、臭いが発生するまで、セルフ・ネグレクトであることを住民の誰もが知らないということも考えられる。また仮に近隣の住民が、「なんかおかしい」と思ってはいても、付き合いの浅い賃貸住宅などでは、見て見ぬふりをすることだってある。

「孤独死は、周りの人たちとのコミュニケーションが薄い状態がもたらすということ。地域でも、会社でも、趣味でもいい。人とのコミュニケーションを密にすることが大事なんです。人付き合いのわずらわしさは確かにあるんですよ。でも、そこをできるだけ面倒臭がらないことですね」

自分がセルフ・ネグレクトになったとしても、誰も助けてくれない可能性もある。そのため、「誰もがセルフ・ネグレクトに陥ってしまうかもしれないという危機意識は持っていたほうがいい」。井上さんは語った。

菅野 久美子 ノンフィクション作家

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かんの・くみこ / Kumiko Kanno

1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。出版社で編集者を経て、2005年よりフリーライターに。単著に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『孤独死大国』(双葉社)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(KADOKAWA)『母を捨てる』(プレジデント社)など。

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