外資の株資金流出は続くが、インド経済に大変調はない

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ボストンコンサルティンググループ・ニューデリー事務所パートナーのアリンダム・バッタチャヤ氏に、インドなどの新興国経済と世界シェアを狙う新興国の超優良企業に関する現状分析や克服すべき課題について聞いた。

--世界的な金融危機の中で、インド経済のファンダメンタルズの状況はいかがですか。

今回のグローバルな金融危機によってまったく影響を受けていないとは言わないが、影響を受けている理由が他国とは違っているようだ。欧米では銀行セクターなどで資本不足の問題が起こっているが、このようなことはインドでは大きな問題となっていない。米国のサブプライム資産に対するエクスポージャーが、インドの銀行は高くなかったのだ。

むしろ流動性問題が大きく、短期のドル建て資金が縮小している。銀行によってはヘッジファンド系に資金が回っており、金融商品の格下げなどで問題が深刻化している。このため、リスクの低い資産へのシフトが広がってきている。

流動性の問題が浮上していることを受けて、銀行間金利が上昇。資産運用、不動産、自動車など一部セクターで資金不足が出始めた。セクターによっては、この影響が大きな危機につながる可能性もある。ただ一方で、直近の四半期における消費セクターの業績は悪いものではなかった。売上高で前年比18%増、利益ベースで同19%増と、消費セクター企業は落ち込んでいない。総合すると、まだら模様の経済状況といえる。

--この先の見通しは。

今後の成長を維持するために期待できる点が三つある。株式市場から外国資金が流出しているが、一方で国内の年金ファンドといった機関投資家の資金が市場に流入している。以前は年金ファンドが株式市場に投資することは許されていなかったが、今は方針転換された。

二つ目は、政府が流動性問題を改善しようと努力しているため、銀行がかなりの金額を現金で保有する方策に出ている。三つ目はすでに起きていることだが、確かにGDPの成長の6割が消費によって占められているが、インド政府がインフラ投資に非常に力を入れていることだ。これが最終的にGDPの成長を押し上げていくだろう。そう考えると、来年からいきなり経済状況が一変する事態には至らないと思う。

--ムンバイで同時テロが起こり、外資流出は拡大するのでは。 

外資が流出してしまうのは基本的に株式市場に向かっている短期の資金であり、産業への投資については今後どうなるかは今の段階ではわからない。これまではテロが起こっても経済への影響はほとんどなかったが、今回のテロについては、もう少し様子を見ないと判断できない。 

--原油価格は落ち着いているが、ルピーの下落により輸入物価が押し上げられ、1次産品の価格が上昇しています。これが成長を脅かすことにならないのですか。

インドのインフレ率はかなり落ち着いてきた。もちろん、ルピーが相当に下落したため全体コストで輸入価格はそんなに下がっていない。ただ、これ以上のルピー安は考えにくい。以前は12%程度のインフレ率だったが、これからは、6~7%程度に調整されるのではないか。   

--中国の減速感はどの程度まで成長を阻害すると思われますか。

外からの視点のほうがより悲観的だと思っている。中国国内からの見方は、かなり強気の視点が浮かび上がってくる。中国政府は、輸出中心から内需の拡大に舵を切ろうとしている。さらなる投資が中国に入ってくるようにと、追加的な施策を打っている。それと、中国における資本状況は非常に強い部分がある。

--金融システムが脆弱である面を考えると、何か経済ショックが加わった場合、中国経済に大きなダメージを与えることになるのでは。

中国の不良債権問題がどんな状況かは、正直なところわからない。不良債権問題は8~9年にわたって取りざたされている問題で、この間も中国の銀行には政府が資本注入してきた。中国政府は相当潤沢な外貨を保有していることを考えると、今後も必要に応じて銀行セクターに資本注入していくことは可能だ。

--新興国の超優良企業と先進国の優良企業とでは、ビジネスモデルや経営戦略においてどんな違いがあるのですか。

いくつかの主要な違いが見て取れる。新興国の超優良企業は、もともと自国市場で非常に強いポジションを持っている。ローカルカンパニーゆえに、価格主導権を取れる市場の顧客に対して、いかにすればローカライズ(現地化)していけるかに長けている点は大きい。

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