古市憲寿が初小説で「安楽死」に挑んだ理由

ラストを包むのは凪のような静けさ

逆に、この本のテーマでもあるんですけど、平成って本当に終わるのかなとも思うんですよね。昭和と違って平成はアーカイブの時代じゃないですか。みんながスマートフォンを手にして、膨大な量の写真や動画、テキストをインターネットという世界に残してる。昭和とは違う意味で終わりにくいというか、別に平成が終わっても、平成の音楽を聞いて、平成の情報だけを入手して生きていくこともできちゃう。まあ元号自体、なくてもいいと思うんですけど。

終わる日が明らかな平成は「安楽死的」

──最先端のブランド名がそこここに登場します。平成版『なんとなく、クリスタル』みたいな。

古市憲寿(ふるいち のりとし)/1985年生まれ。2010年東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。慶応義塾大学SFC研究所上席所員。『絶望の国の幸福な若者たち』ほか著書や雑誌連載多数。数々の政府の推進会議や委員会委員、テレビ番組のコメンテーターを務める(撮影:尾形文繁)

平成という時代を象徴するような物語にしたいと思って。だから主人公たちの服や店、雑誌やテレビ番組、友人知人に実際の固有名詞をちりばめた。もう一つ、2人とも今は経済的に裕福だけど、もともとは愛ちゃんは親がカネ持ち、平成くんは違う。格差社会など、平成の時代に問題化したことを盛り込もう、というのはありました。

──それから安楽死も重要なテーマになっています。日本がいち早く安楽死を合法化していて、海外からの安楽死ツーリズム客が押し寄せているという設定です。

平成って昭和と違って、2019年4月で終了することがあらかじめわかってるじゃないですか。その点が安楽死的だなと思って。平成の終わりと個人の、人間としての終わりを安楽死に重ねた。僕自身、安楽死に興味があって、職業、住む場所、宗教など全部自由に決められる時代なのに、死だけは自分で決められない。

祖母が去年死んだんですけど、その経験から死ってなかなか難しいと思った。すごい元気な人だったのに、病院ではほぼ寝たきり状態で、「死にたい」って言ってた。でも日本の今の医療では積極的安楽死は難しいし、延命装置を切る決断も家族はなかなかできない。何で死を自分で決められないんだろうという疑問がありました。

──誰も口火を切りませんよね、この問題は。

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