企業側の状況はどうでしょうか。現行の「高年齢者雇用安定法」では、65歳までの安定した雇用を確保するため、企業に「定年制の廃止」や「定年の引き上げ」、「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じ、希望者全員を65歳まで雇うことを義務づけています。
60~64歳の男性就業率は、2002年においては64%でしたが、2017年は79%と15年間で15%も増加しており、雇用延長を行った政策の影響は大きいといえるでしょう。
11月16日に厚生労働省が発表した「高年齢者の雇用状況」(2018年)によれば、65歳定年企業は16.1%、66歳以上働ける制度のある企業は27.6%(うち中小企業は28.2%、大企業は21.8%)もあります。さらに70歳以上働ける制度のある企業割合は25.8%(うち中小企業は26.5%、大企業は20.1%)と、深刻な人材不足を背景に、中小企業において高齢者を積極的に雇用する動きが見られます。
雇用延長と年金をセットで考える
高齢者の雇用延長の話と、セットで考えたいのが年金です。先頃、厚生労働省が公的年金の受給開始時期(原則65歳)について、70歳まで遅らせた場合の年金水準の試算を初めてまとめ、公表しました。
夫婦2人世帯(2014年度)の場合、70歳まで厚生年金被保険者として働き、年金の受け取りも70歳まで遅らせると月33万1000円となり、60歳で仕事を辞めて65歳から受け取る一般的なケース(月21万8000円)よりも最大10万円以上増えるという内容です。
月額で10万円も増えるなら、70歳まで働いて年金受け取りも5年遅らせたほうがいい、という意見も多数聞かれました。ただ、このモデル世帯はあくまでも厚生年金に加入していた夫婦(妻は専業主婦)の場合なので、自営業者などにこの試算は当てはまりません。
安倍首相は、70歳までの就業機会の確保について、「早急に法律案を提出する方向で検討したい」と話しています。この背景にあるのが、日本の人口構造と社会保障問題です。高度経済成長期のように人口が増大している社会はマーケットも拡大し、需要が増えるので生産も増え、GDPも増えます。
一方、人口が減っていく人口オーナス期では、マーケットも縮小するため、経済を維持させるためには少ない労働力で生産性向上を考えていかねばなりません。これが働き方改革へとつながっているわけですが、その数字をみるとかなり深刻な状況がわかります。
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