日本は「3Dプリンタ王国」を築けるか 3大シンクタンクが読む2014年の日本⑤
大手企業の現場が、3Dプリンタを現在以上に利用できることで、試作品を
作る回数が増え、革新的な商品企画に到達できる可能性は上がるかもしれない。
しかし、それを市場に投入するかどうかを判断する経営層の意思決定の質やスピードまでを革新できるかというと疑問符がつく。パソコンが社内に行き渡ることと、企業の意思決定の質・スピードの改善がイコールではないのと同じ理屈である。
中小企業は、二極化へ
しかし、中小企業においては話が違ってくる。すでにいくつかの企業においては、製品本体は従来どおりの製造プロセスで製造するものの、そのオプションあるいは保守部品を、3Dプリンタで提供するといった取り組みが始まっている。また、広告・プロモーション用のノベルティグッズとして、3Dプリンタで製造したモノを配布する、もしくは3Dデータのみを配布して、消費者が自分で製造する、といったことも現実味を帯びてきている。
このように3Dプリンタは、最高の精度は必要ないが、安くて、早くて、少量でも作れます、といった領域の部品のビジネスを変えていく。逆にいうと、精度はともかく、安い、早い、少量で、を売りにしている中小企業のビジネスは、マイナスの影響を受ける可能性が高い。
しかも、現在の低価格3Dプリンタの素材は樹脂のみだが、2014年には粉末焼結技術の特許切れを迎え、金属素材を扱える低価格3Dプリンタの登場が予想される。そうすると、さらにマイナスの影響を受ける中小企業の範囲は広がるだろう。
一方で、3Dプリンタによって実現する新たな市場に最も近いところにいるのも、また中小企業である。3Dプリンタが得意とするのは一品ずつカスタマイズして製造することにある。要は、消費者一人ひとりに合わせたものづくりである。
3Dプリンタブームの火付け役となったクリス・アンダーソンの『MAKERS』においても、大手のものづくり企業(メーカー)ではなく、デジタル工作機械とインターネットを駆使した個人(メイカー)が、世界を相手にものづくりビジネスを行うことで、製造業に変革がもたらされると説く。大手企業にとっては市場規模が小さすぎるが、消費者の潜在的なウォンツを掘り起こし、新たな市場を開拓することができるのも、3Dプリンタを活用できる中小企業なのである。
NRIでは、メイカー予備軍となる3Dプリンタの利用ユーザー数は、2018年に85万人に達すると予測している。彼ら自身が、もしくは彼らと共に新たなビジネスに挑戦する中小企業こそが、3Dプリンタから生まれる果実をつかみ、ゆくゆくは次世代のSONYやAppleになることを期待してやまない。
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