「習主席訪朝のうわさ」に中国が沈黙する理由 アメリカとの貿易戦争が影を落としている?

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中国が北朝鮮国内で民間交流を活発化させているのも、あらゆるレベルで北朝鮮の針路に影響を及ぼすためだ。中国は自らに有利な状況を作り出すのと同時に、中国という国のイメージアップも狙っている。

北朝鮮には農業、インフラ建設、エネルギー産業など、中国からの投資とノウハウの導入によって大きく発展しうる産業が複数存在するとみられている。中国大使館員が協力農場を最近訪問し、中国政府が南北の鉄道連結といったインフラ計画に前向きな姿勢を見せていることからもわかるように、中国はすでに有望分野で商機獲得に動いている。中国のメディアや外交官が北朝鮮の病院や学校、大学を訪問したことも、この延長線上にある。

中国にとってはやっかいな状態

しかし、習氏訪朝のうわさについて中国メディアが沈黙しているということは、中朝の間で今まさにハイレベルの交渉が進行している可能性もある。

北朝鮮は中国からの大規模な制裁緩和に加えて、国際的な制裁緩和を後押ししてもらえるよう中国に支援を要請しているものとみられる。一方、中国は北朝鮮に対して経済の開放など、中国に利益をもたらすような政策転換を望んでいる可能性が高い。また朝鮮戦争の終戦宣言についても、中国は影響力を行使できるようにしておきたいと考えているはずだ。

中国とロシアは国際社会に対北朝鮮制裁の見直しを訴え、中国メディアも北朝鮮を厳しく締め上げるアメリカを非難してきた。しかし、制裁は現在も緩和されることなく残っている。中国政府にとってはさらにやっかいなことに、アメリカとの貿易戦争が膠着状態に陥り、中国の北朝鮮政策にも影を落とすようになってきた。

習氏はいつでも訪朝できる状態にありながら、これ以上アメリカを刺激するリスクはとれずにいる、ということかもしれない。

筆者のジョン・ペトルーシュカ氏はワシントンDCから「北朝鮮ニュース」に寄稿している。アメリカジョージタウン大学、およびジョージ・ワシントン大学でアジア研究と国際関係論を専攻した。
「北朝鮮ニュース」 編集部

NK news(北朝鮮ニュース)」は、北朝鮮に焦点を当てた独立した民間ニュースサービス。このサービスは2010年4月に設立され、ワシントンDC、ソウル、ロンドンにスタッフがいる。日本での翻訳・配信は東洋経済オンラインが独占的に行っている(2018年4月〜)。

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