「そうなると、必然的に妻の発言権が強くなってくるんです。そのうち、妻に『誰のお陰で食べられると思ってるの!』と言われることが多くなってきました。そう言われると、何も稼いでない立場としては、何も反論できないですよね。専業主夫の立場で、本当に肩身が狭かったです」
子どもが妻に懐かない
そんな一家の経済状況に危機感を抱いた光一さんは、ある日、常勤で映像関係の仕事を見つける。9時-17時で働けて、給料は月給38万円と破格だった。ボーナスを計算に入れなくても年収は450万円以上になる。話し合いの結果、まだ1歳だった長男を保育園に預け、ゆかりさんとは子どもの送り迎えなどを分担することにした。光一さんは初めてのフルタイム勤務を始めることになる。外の世界での仕事は刺激的で楽しかった。
「お金がヤバいと思ったので、『外で働かせてください』と、まさに妻に『お願い』をして、働かせてもらいましたね。妻には、子どもを迎えに行ってもらったりしました。俺としては働くことで経済的には満足だったんですが、妻にとっては、慣れない子育てと家事はとんでもなく大変だったみたいなんです。
妻を精神的にかなり追い詰めて寂しい思いをさせたみたいで、『やっぱりずっと家に居てほしい』と懇願されました。そのため、その仕事は結局3カ月ほどで辞めることになりました」
子どもたちは極度のパパっ子になっていた。どうしても、日中ずっと一緒にいる光一さんだけに懐いて、ゆかりさんが面倒をみても何かとぐずって言うことを聞かなくなっていた。それはある意味、どうしようもないことだったが、ゆかりさんにはそんなわが子の態度が耐えられないことだった。
「今思えば、子どもは、2人とも自分が育てていますから、逆に妻は、家庭に居場所がなかったんじゃないかと思いますね。家に帰ってきても、自分の子どもたちは明らかにパパにべったりなんです。子どもって、どうしてもずっと長時間一緒にいるほうに懐いちゃうんですよ。
それって、かわいそうだけど仕方ないし、どうしようもないんですよね。完全に一般家庭のお父さんの役割と逆転していました。妻は、俺に”専業主夫”的なものを求めているし、フルタイムの仕事を辞めてから、最後の1年は完全に無収入で、専業主夫になっちゃったんです。『あれ、こんなはずじゃなかったのに?』と思い始めていました」
ゆかりさんは、その頃から、子どもたちや自分から心が離れたのか、たまに朝帰りをするようになっていった。
光一さんが問いただすと、「終電がなくなったから、職場で仮眠を取った」と悪びれもなく答える。「そんな会社はおかしい」と言うと、「光一は会社で働いたことがないからわからないでしょ!」と逆切れされる。そう言われると、会社員経験の乏しい光一さんは、何も言えなくなってしまう。
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