「配偶者控除」の書類、なぜこうも面倒なのか 12月の手取り所得が10万円前後減る人も

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つまり、配偶者控除と配偶者特別控除の適否については、納税者本人の所得だけでなく、配偶者の所得も両方ともより細かく把握しなければ、控除額がいくら適用できるか、計算できない羽目になったのである。だから、冒頭で指摘したように、配偶者控除等申告書は、記入箇所が多岐にわたり複雑になってしまった。

そのうえ、この書類を提出した結果、控除が適用されないと判明したら、12月の給与で精算することになっている。これが年末調整だ。年末調整とは、納税者本人が納めるべき所得税の正確な計算を12月の給与を渡す前までに行い、もし11月までの給与で天引きし損ねていた所得税があれば、その分を12月の給与から天引きする、という仕組みである(逆に、多く払いすぎていた所得税があれば、12月の給与で還付する)。

特に今回の配偶者控除の見直しに関連し、2017年までは配偶者控除が適用されていたが、2018年から適用されないことになった人は、激変となる。11月まで払ってきた手取りの給与は、配偶者控除が適用されることを前提にして、所得税を天引きした後にもらっていたのだ。だから、12月の給与では、配偶者控除が適用されないことを前提に所得税を計算し直し、これまで天引きし損ねていた所得税、額にして10万円以上が追加されて天引きされることになる。

「所得控除」でなく「税額控除」にすべき

政策的に配慮するにしても、もっと簡素にできないものか。

配偶者控除に関する提出書類が複雑化したのは、ひとえに、この控除が所得控除(課税所得を少なくするための控除)の形のまま、控除額について複雑にしてしまったからである。もし配偶者控除を、これまでの「所得控除」の形から、「税額控除」(仮計算された所得税額を少なくするための控除)という形に改めることができれば、もっと簡素になる。

なぜならば、所得控除のままだと、その控除でいくら所得税負担が軽くなるかがわかりにくいのに対して、税額控除ならば、控除額がズバリ所得税負担が軽くなる金額となるからだ。その詳細は、東洋経済オンライン本連載の拙稿「所得税改革は、『配偶者控除』だけではない」に譲るが、いくら税負担額が軽くなるかは、所得控除ではなく、税額控除にしたほうがすぐにわかる。

今回の配偶者控除に関する提出書類を契機に、「税制をもっと簡素にすべき」という国民の声が高まると、税制はよりよくなるだろう。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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