鉄の女「サッチャー」、その知られざる魅力 業績だけで見ればチャーチルを超える

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──大きな案件があるときに、自分のやりやすい土俵を作るのが上手という印象を受けました。

彼女は保守的で、政治的な信念は素朴な人間なのだが、非常に革新的なことをやる。大胆さと慎重さを兼ね備えた、ある意味で矛盾している点が彼女の魅力だと思う。

ドーバー海峡は狭いが深い

──変革期のリーダーが、担税者と受益者の一致に向け、地方財産税廃止と人頭税導入を打ち出し、それが退陣の一因となったのは皮肉です。

結局、人頭税導入は後継のメージャー首相時に放棄された。資産にかかる税金で、資産をあまり持たない人々の福祉なども賄うことは受益者負担原則に合わない。ただ、問題はわかっていても、解決に必要なコンセンサスを得るのは難しい。所得に対する逆進性の高い人頭税は敗者が多すぎた。勝者が多数になる解決策じゃないと政治的にはうまくいかない。

マーガレット・サッチャー: 政治を変えた「鉄の女」 (新潮選書)
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──イギリスはサッチャーが成立に関与したEUからの離脱を決めました。2度の大戦で大陸を救ったのは自分たちなのに、という意識がイギリス国民には抜きがたいようですね。

ドーバー海峡は狭いけれど深いんです。ローマ帝国の支配しかり、ノルマンコンクェストしかり。いつの時代も、欧州大陸との距離をどう保つかがイギリスの為政者にとって非常に重要だった。主権、移民、いろいろあるが、根底には歴史的な流れがある。歴史的、文化的なギャップは大きい。サッチャーがドイツ再統一に最後まで難色を示したのは、大陸の覇権国家はイギリスの国益に資さないという何百年も続いた戦略観に基づいている。その意味では、時代遅れだったといえる。

──EU離脱の舵取りをするメイ首相は同じ女性ですが、サッチャーにはほとんど言及しませんね。

メイ首相はサッチャー以前の保守党の政治、つまりリーダーではなく組織でする政治に先祖返りしていると思う。

(文責:編集部)

【インタビューを終えて】
含意の豊かな本である。G20サミット担当大使である著者は政府の一員なので、政治的な考えを表明する立場にはない。にもかかわらず、前著『危機の指導者 チャーチル』と同様に、サッチャーを主役とする登場人物による過去の政治的決定の詳述は、日本に暮らす私たちに無数の示唆を与える。 
中沢 孝夫 福井県立大学名誉教授

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なかざわ たかお / Takao Nakazawa

1944年生まれ。博士(経営学)。ものづくり論、中小企業論、人材育成論を専門とする。高校卒業後、郵便局勤務から全逓本部を経て、20年以上の社会人経験を経た後に45歳で立教大学法学部に入学を果たす。1993年同校卒業。1100社(そのうち100社は海外)の聞き取り調査を行っている。著書に『転職の前に―ーノンエリートのキャリアの活かし方』(ちくま新書)。

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