「メルケル時代終焉」でドイツは不安定化する 首相の早期退任は不可避、後継体制は流動的
ドイツのアンゲラ・メルケル首相は過去18年間率いてきたCDUの党首の座を退くことを決意した。昨年秋のドイツ連邦議会選後、与党・キリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU、両党は姉妹政党でCSUはバイエルン州のみで活動)の支持率は低迷を続けてきたが、今年10月のバイエルンならびにヘッセン州議会選での与党の歴史的な敗北が決定打になった。第1党の座こそ守ったものの、近年まれにみる低支持率に沈んだからだ。
過去13年間、欧州最大国の首相として絶大なリーダーシップを誇ってきたメルケル氏は、党内のライバルやかつての恩師を次々と閑職に追いやりトップにのぼり詰めたことでも知られ、従来、党首職と首相職を兼務することを重視してきた。
CDUの党史の中で党首と首相を別の人物が務めたのは、連邦議会選挙と党大会の開催時期のズレを除けば、第2次大戦後に西ドイツの初代首相を務めたコンラート・アデナウアー氏が、4期14年の施政を経て首相を退陣した後も91歳で死去するまで党首職にとどまって以来のこととなる。
メルケル氏は議会任期が満了する2021年秋まで首相の座にとどまり、そのまま首相と連邦議員を退く意向を示唆しているものの、同氏がこのまま首相としての任期を全うできるかは予断を許さない。以下では、メルケル氏の首相としての去就を左右しそうな3つの要因に注目したい。
本命候補は3人だが、行方は混沌
第1に、12月6~8日に開かれるCDU党大会で選ばれる後継党首の人選だ。立候補を表明した10数名の中で本命候補は3人に絞られる。
その1人、アンネグレート・クランプ=カレンバウアー党幹事長は党内穏健派で基本的にメルケル路線を踏襲するとみられている。女性として初めてザールラント州首相を務めた後、今年2月にメルケル首相が党首就任前に就いていた党幹事長職に就任。早くからメルケル首相の後継者候補と目されてきた。
もう1人の有力候補は、党内保守派でメルケル批判の急先鋒であるイェンス・シュパーン保健相。22歳の最年少で連邦議会議員に当選、現在38歳で党の若返りと刷新を求める党青年部のリーダー格だ。難民の受け入れに批判的で、メルケル体制下の党の左傾化(中道路線)を問題視する保守層や若手から支持を得る。
ダークホース的な存在が、かつてのメルケル首相の政敵で約10年前に政界を引退したフリードリッヒ・メルツ元院内総務だ。政界引退後はビジネス界に転身したが、今も党内に強いパイプを持つ。今回の党首選出馬は、欧州債務危機時に財務相として辣腕を振るったヴォルフガング・ショイブレ連邦議会議長(メルケル首相の前任のCDU党首)の進言によるものとも言われている。
メルツ氏は経済政策ではリベラル志向、社会政策では保守志向で知られ、党内の親ビジネス派や反メルケル派から支持を得そうだ。雄弁な演説者としても知られ、野党時代に与党の財務相に挑んだ国会答弁は今も語り草となっている。
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