「メルケル時代終焉」でドイツは不安定化する 首相の早期退任は不可避、後継体制は流動的

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メルケル氏の党首辞任表明後に発表された世論調査はいずれもメルツ氏がリードし、クランプ=カレンバウアー氏が次点、シュパーン氏がやや離されて後を追っている。ただ、こうした調査は調査対象をCDUの党員に絞っていないものが大半である点に、注意が必要だ。

党首選出は現職議員や州の代表団による投票で行われ、クランプ=カレンバウアー氏が組織票を稼ぎそうだ。最大州ノルトライン・ヴェストファーレン州のアルミン・ラシェット首相が党首選への不出馬を表明したことも、同じ穏健派のクランプ=カレンバウアー氏に有利に働くとの見方もある。最大州の同州は党首選で最多の投票者を抱えているからだ。

ただ、ノルトライン・ヴェストファーレン州は州都デュッセルドルフを中心に多くの優良企業を抱え、外国企業の進出が最も多いドイツ有数の経済地域として知られる。クランプ=カレンバウアー氏が最低賃金の引き上げや労働者保護を重視するのに対し、親ビジネス派のメルツ氏は同州出身で政界引退前は同州選出の連邦議会議員であった。保守票を分け合うシュパーン氏が立候補を取り止めるかどうかも含め、党首選の行方は混沌としている。

クランプ=カレンバウアー氏が後継党首となった場合、同氏が自ら進んでメルケル氏に早期の首相退陣を求めることはないだろう。だが、かつての政敵であるメルツ氏やメルケル体制に批判的なシュパーン氏が後継党首となった場合、首相の政策方針と党の優先課題が食い違い、メルケル氏の首相退任時期が早まりそうだ。

2019、20年の州議会選でも与党は苦戦する

第2に、2019年と2020年初頭に行われる州議会選で与党の苦戦が予想されることだ。2019年5月のブレーメン(市だが州としての行政権限が認められている)、秋には旧東ドイツのブランデンブルク、ザクセン、チューリンゲンの3州、さらに2020年2月にハンブルク(同じく市だが州の扱い)の州議会選が予定されている。

10月に行われたバイエルンとヘッセンの両州議会選では、CDU/CSUの保守政党と大連立に加わる中道左派の社会民主党(SPD)の2大政党が揃って苦戦した一方、難民の受け入れに批判的な右派政党・ドイツのための選択肢(AfD)と環境政党・同盟90/緑の党(Grüne)が大きく躍進した。

昨年秋の連邦議会選の州別・政党別の得票率をみると、ブレーメンとハンブルクの2都市は全国平均よりも緑の党への支持率が高く、旧東ドイツの3州ではAfDの支持率が20%を超え、全国平均を大きく上回っている。2大政党にとっては、今回の2州以上に厳しい戦いが待ち構えている。

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