EUの新たな試練、「債務危機から難民危機へ」 カネで解決できない「ヒトの問題」は深刻だ
7月2日、アンゲラ・メルケル独首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)は難民・移民問題をめぐり対立していた連立相手のキリスト教社会同盟(CSU)の党首で内務相であるホルスト・ゼーホーファー氏と対応策で合意し、連立崩壊の危機を回避した。これにより「政権崩壊から総選挙、そして極右政党の躍進が続く」という市場が想定していた最悪のシナリオは避けられた。
もとよりゼーホーファー内相はメルケル首相の譲歩がなければ辞任するとの立場であり、結果的にはメルケル首相が歩み寄った格好である。連立政権発足当時からゼーホーファー内相率いるCSUの厳格な難民政策はCDUとの差異としてクローズアップされていた。いや、連立政権発足当時に限らず、長年姉妹政党であった両党だが、難民政策に関してはつねに対立してきた経緯がある。CSUはバイエルン州のみを拠点とする政党であり、同州はオーストリアに隣接し、難民の玄関口になっているため、メルケル首相の人道主義とは必然的に距離を置かざるをえないという内情がある。
たとえば、発足当時は年間の難民受け入れ数に「上限」を設けるかどうかが話題となった。そして総選挙直後となる昨年10月9日、両党が年間の難民・移民の受け入れ「上限」について「20万人」で合意したことが大々的に報じられたが、厳密には「上限」という単語は使われていない。
両党が合意したのはあくまで「目標値」ないし「基準値」であって、場合によってはこれを超える事態も許容されるとの解釈に落ち着いている。「上限」を使わせなかったのはCDUの意向である一方、20万人という明確な数字を示したのはCSUの意向であった。後者の意向を酌まなければ連立政権を樹立することはかなわず、両者妥協の産物である。
CSUへの譲歩はメルケルの保身のため
とはいえ、メルケル首相が「無制限」をうたった難民受け入れの方針がこの瞬間に修正を迫られたことは確かであった。2017年の総選挙の敗因があまりにも明らかであった以上、CDUとしても何らかの数値目標を受け入れることには抵抗がなかったのだろう。結局、両党が守りたかったのは「メンツ」であり、難民ではなかったと考えられる。
こうした経緯を踏まえれば、連立政権発足時にメルケル首相がCSUに難民政策を主管する内相ポストをわざわざ与えたことの意味も見えてくる。内相を担当するCSUの要求に応じてCDUが譲歩した格好を取ればメルケル首相の「メンツ」は守られるし、その一方で受け入れの制限も可能になり世論にも迎合できる。内相ポストはCDUからCSUへの「プレゼント」と揶揄されていたが、ほかならぬCDU(というかメルケル首相)の保身のためでもあったともいえるだろう。
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