EUの新たな試練、「債務危機から難民危機へ」

カネで解決できない「ヒトの問題」は深刻だ

もちろん、10月中旬のバイエルン州議会選挙を前にCSUが踏み込んだ動きを見せてきたというのは、メルケル首相にとって誤算だったのかもしれない。何もしなければ極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に付け入るすきを与えるという危機感が非常に強かったのだろう。6月中旬に動いてきたのは「6月28~29日のEU(欧州連合)首脳会議で何とかしろ」というメッセージを送るためだったと考えられる。

結果的にそれはある程度奏功した。7月2日に行われたメルケル首相とゼーホーファー内相の会談では、ほかのEU加盟国に登録された難民の収容施設(トランジットセンター)をドイツとオーストリアの国境付近に設立することが合意された。この施設に収容され足止めされた難民はダブリン規則に応じて最初に入国・登録が行われた国に送り返されることになる。この際、送り返す先の加盟国とは2カ国間協定が必要とされ、いわゆる「押し付け」的な事態には発展しないことが想定されている。CSUの要求する厳格性を担保しながらも、加盟国との軋轢(あつれき)を生まないという苦肉の折衷案である。

難民をめぐるEU首脳会議声明はあいまい

だが、その2カ国間協定にどの国が応じてくれるのかという根本的な疑問は残る。すでにギリシャやスペインがこの協定に合意する方針だと報じられているが、ポーランド、チェコ、ハンガリーといったいわゆる「対難民タカ派」の東欧諸国がこうした協定を受け入れる気配はない。何より難民が最も漂着するイタリアが賛同していないことからも実効性に疑問符が付く。

ちなみに、極右政党と組んで連立政権を樹立したオーストリアのセバスティアン・クルツ首相は、ドイツがこの政策を実施した場合、「(オーストリア)政府は、特に南部の国境の保護に向けた措置を講じる用意がある」と表明している。メルケル首相が恐れていた「国境封鎖の連鎖」の萌芽として注目すべきものだろう。

両者会談の前に開催された6月28~29日のEU首脳会議では最重要論点である「難民受け入れの分担義務」にまで踏み込むことはできなかった。その代わりにEUの域内および域外に難民審査手続きのための施設を新たに設けることで合意している。新施設で国際法に基づく庇護が必要だと認定された難民はEU域内への受け入れが可能になるが、職探しなどが理由の移民(いわゆる経済移民)は送り返されることになる。

とはいえ、域外のどこに設置するかは未定であり、域内に至ってはあくまで「自主的に」設置することになっている。東欧諸国が強硬に反対している以上、設置を強要することはできないという事情が強く出てしまったのだろう。

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