ドイツ、「敗者の大連立」では亀裂修復できず メルケルも過去の人、伝統政党の危機は続く
ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、社会民主党(SPD)が1月21日の臨時党大会で、大連立へ向けた交渉開始を決めた時、安堵の表情を見せた。この党大会での決議は、大連立政権を復活させる上で、最大のハードルだったからだ。首相は、過去数カ月にわたって、「一刻も早く安定した政権を樹立するべきだ」と繰り返してきた。
ドイツでは、昨年9月末の連邦議会選挙から約4カ月経っても、新しい政権が誕生していない。このような異常事態は、第2次世界大戦後一度もなかった。だが今回のSPDの決定によって、政権の空白というトンネルに一筋の光明が見えてきた。メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)・キリスト教社会同盟(CSU)とSPDは、党大会に先立ってまとめ上げた新政権の政策アウトラインに基づき、連立協定書の合意を目指して本交渉を始める。交渉が順調に進めば、今年3月には、メルケル首相に率いられて新政権が誕生する。
EUはSPDの連立参加の決定を歓迎
SPDの今回の決定について、ドイツの国外と国内では反応が大きく異なっている。まず国外では、SPDの決定を称賛する声が強い。たとえばEU(欧州連合)で経済問題を担当するピエール・モスコビチ委員は、「SPDはこの決定によって責任感の強さを示した」と称賛。欧州委員会のジャンクロード・ユンケル委員長も、「今回の決定は、欧州の団結を強化する上で朗報だ」という声明を発表している。EU幹部が、一政党の党大会の決議の結果を称えるコメントを出すのは、異例のことだ。
EU幹部がSPDの決定を高く評価したのは、彼らが、一刻も早くドイツに新政権が誕生することを待ち望んでいるからだ。EUのリーダー国であるドイツで、政府不在の状態が長引いていることは、欧州全体の政局運営に影を落としている。
たとえばEUは、欧州経済通貨同盟の改革について、早急に協議しなくてはならない。フランスは、「ユーロ圏財務大臣」という新しいポストを設けて独自の予算を持たせることや、ユーロ圏加盟国の救済機構である「ESM(欧州安定メカニズム)」をIMF(国際通貨基金)の欧州版に発展させることを提案している。またEUは、イスラム・テロやロシアの脅威に対抗するために、独自の防衛体制を強化し、米国への依存度を減らすことを目指している。さらに、将来、北アフリカや中東から欧州を目指す難民がさらに増えると予想されているため、EUの外縁部の警備を強化や、EU加盟国への難民配分ルールについても早急に決める必要がある。
だがEUに最大の影響力を持つドイツで政権が定まっていないために、これらの課題についての協議は棚上げになっている。SPDの大連立承認は、この膠着状態を打破するための重要な一歩だ。ユンケル委員長らがSPDの決定を歓迎したのは、このためだ。
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