ドイツ、「敗者の大連立」では亀裂修復できず メルケルも過去の人、伝統政党の危機は続く

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一方ドイツ国内では、手放しの歓迎ムードは希薄だ。「果たして安定した政権ができるのか。結局は『敗者の大連立』になるのではないか」という懸念すら聞かれる。その理由を知るには、時計の針を昨年の連邦議会選挙まで戻さなくてはならない。

ドイツはこれまで、他の欧州諸国と異なり、政治が安定していることで知られてきた。読者の皆さんの中には、「その国でなぜ政局がこれほど混迷したのか」と不思議に思われる方も多いだろう。

その引き金は、3年前の難民危機である。ドイツへの難民流入は、昨年9月24日に行われた連邦議会選挙で大きな地殻変動を起こし、同国の政治的安定という岩盤に深い亀裂を生じさせたのだ。この選挙で多くの有権者たちは、2015年にメルケル政権がシリアなどからの難民約100万人を例外的に受け入れたことについて強い不満を抱き、大連立政権を構成していたCDU・CSUとSPDを厳しく罰した。

CDU・CSUの得票率は前回に比べて8.5ポイント減少し、戦後2番目に低い水準に落ち込んだ。SPDの得票率は、20.5%という結党以来最低の水準を記録した。逆に、有権者たちは排外主義を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の得票率を前回の選挙に比べて2.7倍に増やし、一挙に第3党の座に引き上げた。反EU、反イスラムを標榜する極右政党が、ドイツ連邦議会に議席を持ったのは初めてのことである。

SPD・シュルツ党首の下野宣言で波乱

得票率は大きく減ったものの、CDU・CSUとSPDの議席数を合わせれば、議席の過半数を確保できるはずだった。だがSPDのマルティン・シュルツ党首は、得票率が史上最低の水準まで落ち込んだことを理由に、開票直後に、「野党席に戻って党を立て直す。大連立政権には加わらない」と宣言した。シュルツ氏は、CDU・CSUと大連立を組んだことで、政策が似通ってしまい、独自色が薄れたことが選挙の敗因の1つだと考えたのだ。

このためCDU・CSUは中道保守で企業寄りの政策を持つ自由民主党(FDP)、環境政党・緑の党との四党連立政権を作らなくては議席の過半数を確保できないという事態に陥った。だがFDPと緑の党は、エネルギー政策や難民政策などについて鋭く対立している。リベラルな思想を持つメルケル首相は、交渉の中でFDPよりも緑の党の肩を持つ場面が目立った。怒ったFDPのクリスティアン・リントナー党首は、「主義主張を曲げてまで政権に加わるよりは、野党でいた方がましだ」として、11月19日に交渉から離脱してしまった。第2次世界大戦後のドイツで、大政党が連立政権の樹立に失敗したのは、初めてである。

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