ドイツ、「敗者の大連立」では亀裂修復できず メルケルも過去の人、伝統政党の危機は続く
筆者は、SPDの指導部は「CDU・CSUと激しく戦った」というポーズを見せた後に、結局は譲歩して連立協定書に署名すると考えている。シュルツはFDPのリントナーとは異なり、一刻も早く政権を樹立することを優先している。欧州議会の議長を長く務め、ドイツの国内政治の経験が少ないシュルツは、「党を改革して、野党として出直す」という大義名分のために、連立交渉を中断するような胆力は持っていない。
SPD指導部が大連立を支持したもう1つの理由は、再選挙を行った場合、SPDの得票率がさらに下がる危険があることだ。党大会でナーレス院内総務は、「再選挙さえ行えば、我々の政策を実現できるという保証はない。大連立政権の中でも、政策の実行は可能なはずだ」と代議員たちに訴えた。
現在再選挙の可能性は低くなったものの、シュルツの右往左往が原因で、SPDに対する支持率はすでに下がりつつある。1月23日にドイツの世論調査機関Insaが発表したアンケート結果によると、SPDへの支持率は、昨年9月の連邦議会選挙での得票率よりも約2ポイント下がり、18%になった。逆に極右政党AfDへの支持率は、約2ポイント増えて14%に達し、SPDとの差は4ポイントに縮まった。現在の傾向が続けば、SPDがAfDに追い抜かれる可能性がある。
レームダック化する第4次メルケル政権
満身創痍のSPDが出直すには、シュルツに代わる新しい党首を選ぶ必要がある。もしもシュルツが第4次メルケル政権の閣僚になるとしたら、SPDに対する支持率は、さらに下がるだろう。SPDにとってシュルツは、問題の解決者ではなく、問題の一部となってしまっている。
一方、連邦議会選挙で大幅に得票率を減らしたCDUのメルケル、CSUのホルスト・ゼーホーファーともに、もう「過去の人」という印象が強い。
メルケルにとっては、4期目が最後の任期となる見通し。彼女の難民受け入れ決定は、「英仏やEU、連邦議会と協議せずに独断で行い、結果として市民の不安感を強めて、右派ポピュリズムの追い風となった」として強い批判を浴びた。連邦議会選挙でCDUの歴史的な敗北が明らかになった直後に、メルケルが党員たちの前で「私が政策を変更する必要はまったくない」と断言したことは、多くの支持者に強い衝撃を与えた。CDUの草の根の党員の間では、「メルケルは、長年にわたって権力の座にいたために、現実世界に足が着いていないのではないか」という意見もある。
ゼーホーファーもCSUの党首の座には残っているものの、バイエルン州首相の座を今年中にも同州のマルクス・ゼーダ―財務大臣に明け渡す方針だ。彼が党首の座を退くのも、時間の問題だろう。
つまり第4次メルケル政権は、「レームダック(足の悪いアヒル=影響力を失った政治家のこと)」たちに率いられた「敗者の大連立政権」になる可能性が強い。連邦議会選挙で負けた政党が再び政権の座に就くことを、「これは民意の実現ではない」と奇異に感じる有権者も多いはずだ。この4カ月間の政治家たちの迷走が、市民たちの既成政党に対する失望をさらに強めて、極右政党AfDの支持率をさらに押し上げる危険すらある。
大連立政権が誕生しても、伝統政党の危機は終わっていない。ドイツの民主勢力が有権者の信頼を回復するまでの道のりは、まだ遠いと言うべきだろう。
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