鉄の女「サッチャー」、その知られざる魅力 業績だけで見ればチャーチルを超える

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石炭産業は産業革命の原動力でイギリスでは大きな存在だったため、炭鉱ストへのサッチャーの対応は政治を超える社会的インパクトをイギリスに及ぼした。

──「労働党を改宗させた」。労働党も優れた政党ですね。日本の社会党は国鉄改革で国労が弱体化すると存在感を失っていきました。

労働党は第2次世界大戦前から単独政権を担った経験がある。労働者階級の代表という矜持はあるが、国を治めるには矜持だけではダメというDNAがあるのだろう。

サッチャーの「知的真摯さ」とは

──フォークランド戦争でも、侵略者に報酬を与えない、と妥協のなさが抜きんでています。

中沢 孝夫(なかざわ たかお)/1944年生まれ。現場を踏むことを重視する経済学者。専門は中小企業論など(撮影:大澤 誠)

簡単に妥協できる政治状況ではなかったということはある。それでも、「信念の政治家」という言葉を安売りしたくはないが、原則に厳しい面は確かにあった。

──これだけ非妥協的だったのに10年余も政権を維持できたのは、本書に書かれている彼女の「知的真摯さ」ゆえでしょうか。

サッチャーを契機に政治がパーソナライズされた。組織ではなく指導者が有権者との間でどういうコミュニケーションを取るか、信頼関係を生み出せるかが大事になった。

現在のポピュリズムに似ているが、有権者との信頼関係を10年以上維持するには知的真摯さが必要だと思う。

冨田 浩司(とみた こうじ)/1957年生まれ。1981年に外務省入省後、北米局長、イスラエル大使などを経て、2018年8月から現職。英国には研修留学(オックスフォード大学)と2回の大使館勤務で計7年滞在(撮影:大澤 誠)

すべての人が彼女の政策を支持したわけではない。が、政策に取り組む姿勢に共感を持った人が選挙で過半数を取れるくらいいた。平たく言えば、彼女の言葉は信頼できるという人が多かった。

──どこかの国の、〇〇よりまし、という消極的支持と違いますね。

環境変化が乏しいとき、有権者は政府がどのくらいうまく物事を進めるか、いわゆるコンピタンスを基準にして評価していると思う。環境が激変するときは判断基準が違う。サッチャーの時代はイギリス病、冷戦終結など政治、経済が変化し、従来のやり方では有権者の要望を受け止められなくなった時代。そこで能力を示したサッチャーは、変革期に指導力を発揮できる人間だった。

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