米国四季報で読み解く個人消費を支える主役 知られざるアメリカの小売業企業たちの動向

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10月15日、老舗百貨店のシアーズを傘下に持つシアーズ・ホールディングス(SHLD)が連邦破産法11条の適用を申請し、破綻した。かつてシアーズ・ローバックの社名で全米に店舗展開したほか、カタログによる通信販売も幅広く手がけ、1973年にはシカゴに当時世界一の高さを誇ったシアーズ・タワーを建設するなど一世を風靡した。2005年にKマートに買収され合併し、その後経営再建を進めたが、業績は回復しなかった。

現在、米国のみならず、日本を含む世界中で、小売業に大きな変革が起こっている。それはネット通販の拡大であり、その最大の立役者がアマゾン・ドットコム(AMZN)だ。1994年に創業し、書籍のネット通販からスタートした同社は、やがてCDやDVD、ゲームなど取扱品目を拡大し、現在では日用品から大型家電製品に至るまで、多種多様な商品を取り扱うまでになっている。

その過程で、注文までのユーザーの手間と注文を受けてから配送完了までの時間を徹底的に簡素化、短縮化するサービスを追求したことが、支持を拡大する要因となった。

『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(スコット・ギャロウェイ著)によると、米国の小売業は成長していない業種であり、その中で成長しているアマゾンが勝者だとすると、アマゾン以外のすべてが敗者だという。2017年12月期のアマゾンのクラウドサービスAWSを除いた売上高は前年比30%増の約1600億ドルと、確かに驚異的な伸びではある。しかもアマゾンは、食品スーパーのホールフーズを買収し、無人店舗などの展開を視野にリアルの現場に逆殴り込みをかけてきた。では「敗者」とされた他社はそれに甘んじているのか。

アマゾンの「敗者」とされた他社の戦略

最大手ウォルマートは2016年8月にEコマースのジェット・ドットコムを買収したのを皮切りに、中国ネット通販2位の京東と提携、またインドのネット通販企業フリップカートを買収するなど、ネット分野の強化を急ピッチで進めている。クローガーはネットで注文した商品を駐車場で受け取る「クリックリスト」やレジを通さずに買い物ができる「スキャン、バッグ、ゴー」などの新サービスで対抗する。ノードストローム(JWN)やJ.C.ペニー(JCP)など苦戦が続く百貨店もEコマースに活路を求め、現在のところは順調だ。

2018年6月、アマゾンは処方薬のネット販売を行うピルパックを買収すると発表、ネットでの医薬品販売に本格的に参入する。そうなるとCVSヘルスやウォルグリーン・ブーツ・アライアンスも高みの見物とはいかなくなる。買収など生き残りをかけた動きがさらに活発化することは必至で、ますます目が離せない。

加藤 千明 ファイナンシャル・プランナー、「アメリカ企業リサーチラボ」運営

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かとう ちあき / Chiaki Kato

大手証券会社勤務の後、1993年7月、東洋経済新報社に入社。主に統計指標をベースとした刊行物を担当する一方、電機・化学業界担当記者としてITバブルの全盛期と終焉を経験。その後は、マクロ、マーケットおよび地域動向を主戦場に、データをもとにした分析、執筆などを行う。2005年より『東洋経済 統計月報』編集長、2010年より『都市データパック』編集長。『米国会社四季報』編集部を経て、2021年2月に退社。現在はファイナンシャル・プランナーとして活動するかたわら、アメリカ企業の決算情報を中心にSNSで発信。

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