トヨタがひそかに進めた「5大陸走破」の裏側 過酷な環境でこそ「いい車」の本質が見える

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トヨタとスズキの関係から参加が実現した、スズキの四輪車両性能開発部の前田侑希さんは今回の経験をこう語る。

「このような経験はスズキ単独ではできないことだったので本当にありがたいです。アフリカを経験したことで、何が必要か、今まで『何となく』だったことが『確信』につながったことは大きいです。今後のスズキの車両開発の取り組みが確実に変わると思います。また、ほかのメンバーはスズキの社員だからとよそ者扱いせず、同じファミリーとして扱ってくれたのもうれしかったですね。行く前にアフリカの売り上げを教えてもらって『少ないな』と思っていましたが、現地に来ると多くのスズキ車を見かけたのはうれしかったですね。新型ジムニーも愛されてほしいな……と」

このように、各人が今回の5大陸走破で得たものはさまざまである。このプロジェクト参加者に報告書の提出義務はあるものの、その後の仕事にどう活かすかは個人に委ねられている。元の職場に戻ったとき「どうすればもっといいクルマづくりに貢献できるのか?」「クルマ屋として自分に何ができるか?」と言ったように、どの職種であっても“自動車メーカーの●●”であることを考えながら仕事を行っていくマインドチェンジこそが、このプロジェクトのいちばんの目的なのかもしれない。

知識を持っていても止まっていては変わらない

最後にアフリカ走破のキャプテンとして陣頭指揮を取った車両技術開発部の分胴四治さんに、「参加メンバーに今後期待したいことは?」という質問をするとこう答えてくれた。

「アフリカは見る物すべてが新鮮でした。テストコースに路面としては存在しますが、やはり現地現物はすごいなと。人材育成の結果はすぐに出ません。実際にアフリカを走って学んで気がついたことと、今あるギャップをどうやって埋めていくのかが大事で、とにかく自分の判断で前に進むことです。知識を持っていても止まっていては変わりません。みんなその能力を持っていると信じています」

筆者は今年2月に行われたトヨタ2018年3月期第3四半期決算説明会に参加したが、この時工場統括の河合満副社長が「トヨタの競争力を支えるモノづくり」について、このように語った。

「ある実験でロボットに美しい字を書かせるように教える際、書道未経験者が教えた場合と書道経験者が教えた場合とでは結果は歴然です。つまり、トヨタ生産方式は熟練を重ねた『匠の技』をロボットに織り込むことが重要になります。現在、電動化、コネクテッド、自動運転など100年に一度の大改革の時代に突入していますが、そんな時代でも良い手本を示せる『人の技術』は欠かせません。今後も課題や変化に挑戦し、やりきる『モノづくり集団』を育て続ける必要がある」

トヨタでは昔から「現地・現物・現実」の「三現主義」を重要視している。2007年にGAZOO Racingがニュル24時間耐久レースに参戦する際に、テストドライバーの成瀬弘さんは「技術を伝承し、人材を育成する場としてレースは最高の舞台。大事なことは言葉やデータでクルマづくりを議論するのではなく、実際にモノを置いて、手で触れ、目で議論すること」と語っていた。

トヨタの周りでは、さまざまなことがものすごいスピードで動いているが、クルマを造るのは「人」である。どんなにいい素材、環境が用意されたとしても、それを活かす人材がいなければ何も意味がないのである。

そんな人材をもっと増やすために、トヨタは今後も“世界の道”を走り続ける。10年後、20年後、このプロジェクトの本当の結果が表れてくるのかもしれない。

山本 シンヤ 自動車研究家

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やまもと しんや / Shinya Yamamoto

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車雑誌の世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の気持ちを“わかりやすく上手”に伝えることをモットーに「自動車研究家」を名乗って活動をしている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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