トヨタがひそかに進めた「5大陸走破」の裏側 過酷な環境でこそ「いい車」の本質が見える

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しかし、現地で再会した参加メンバーはあの時とはまったく違っていた。目つきは全然違うし、何かを得ようとする姿勢が明確に解る。一つひとつの行動もテキパキしているうえに普段はおのおのがまったく異なる部署で働いているとは思えないほどのチームワーク、そして現地スタッフとのコミュニケーションも申し分ない。運転も事前研修会のような不安な感じはなく安心してステアリングを託せる。

おそらく、アフリカで道とクルマと純粋に向き合ったことで参加メンバーにさまざまな変化があったのは間違いないが、当の本人たちはどう感じているのだろうか?

ある意味、今回のプロジェクトにいちばん近い環境下で仕事をしているのが、アフリカ部の麻生達輝さんである。

「実は昨年1年間、ヨハネスブルクに駐在していましたが、今回のようにクルマに乗って性能を確認することや競合車と比較することはありませんでした。走らせて疑問に思ったことは周りのメンバーがすぐに教えてくれる。今後営業するときにカタログ的な話ではなく経験から自信を持って話ができると思います。今後の指針になるような経験ですね」

純正用品の開発を行っているC&A事業部の加藤孝明さんは、偶然にも今年からアフリカ向けの用品の品質を見ている。

「市場の不具合の情報がきても、正直ピンとこなかったのも事実です。アフリカでの使い方と路面環境をセットで見ることができたのは大きな収穫でした。そんな使い方すれば不具合出るよね……と。また、違う職種の人は視点が違うので新たな発見もありました。つらいことはなく楽しいことのほうが多かったです」

ユニット部品調達部の宮内貴史さんは、レクサス「IS F」でサーキット走行やドリフトを楽しむほどのクルマ好きだが、心の中では「開発に移りたい」という気持ちがあったという。しかし、今回の経験でその考えが変わったそうだ。

「自分が参加したルートは想定内でしたが、見えている道だけでなく置かれている環境も大事だと感じました。久々にクルマの現場に来られたので、『いいクルマを造りたい』という初心を思い出しました。そういう意味では、調達という業務の中で自分が協力できることはまだまだあるな……と。これまでは言葉も違うし一歩踏み出せませんでしたが、実際に聞くと喜んで困ったことを教えてくれる。困っている人たちのために何とかしたい……というマインドが増えました」

視点を変えると正解だったものが正解ではなくなる

一方、今回の走破車両のランクル/ハイラックスの開発にもかかわるCV車両性能開発部の渥美健夫さんはほかのメンバーと違って、今回の経験を冷静に分析する。

「明確に『何かが変わったか?』『驚きがある発見があったか?』と言われるとないのですが、普段の業務とは離れた目線で『いいクルマとは何か?』ということを広い視点で見ることができたことが大きいですね。正しいと思っていたことが視点を変えると正解ではなくなる、逆もしかりです。アフリカではクルマを使う、持てることの価値が大きいので、すべてはお客さんの気持ちになって考える必要がありますが、答えのない答えですね」

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