日本人が知らないカンボジア「独裁化」の現実 中国がフン・セン政権の強権を支えている
堀:弾圧などの状況がなかなか高橋さんの取材以外からは伝わってこない。他のジャーナリスト、現地メディアはどうしているのでしょうか?
高橋:やはり、カンボジアにあるメディアは、どうしても政権の直接的な弾圧を受けやすい。批判的な記事を書けない、政権寄りの情報しか流すことができないという、まさに恐怖の弾圧で完全にコントロールされてしまっている状況です。異議を申し立てることが非常に難しい状況に追いやられてしまっています。
堀:現地のメディア「The CAMBODIA DAILY」という歴史のある英字新聞も廃刊に追い込まれたんですよね。
高橋:「The CAMBODIA DAILY」は、1993年からの24年間、すべてが破壊されてしまった大地でカンボジアの事実を伝えるために立ち上がった、初の英字紙でした。私自身も約3年間、「The CAMBODIA DAILY」に取材写真を掲載していただきました。「The CAMBODIA DAILY」は勇気を持って弾圧と対峙し続けてきたため、つねに政権から脅されたり、批判を受け続けたりしてきました。その結果、去年の9月4日に廃刊に追い込まれました。
堀:突然6億円を超える税金の請求を突きつけられたんですよね。しかも、その6億円が妥当なものなのかどうかは、はっきりとわからない。税金を払えないということで廃刊になり、新聞社に関わってきた経営者はカンボジアに戻ってくることさえできないような状況にあるということです。メディアを潰すというのは、独裁の象徴的な出来事でしたよね。
高橋:主要新聞の1つを亡き者にしたわけです。
堀:高橋さんをはじめとするジャーナリストたちの活動も制約を受けていて、Facebookの内容も含めて政府から監視され、逮捕される仲間たちもいましたよね。
高橋:まず1人は、オーストラリア人のビデオジャーナリストです。彼はもう60代後半なのですが、昨年の地方選挙期間中に最大野党「カンボジア救国党」の集会を取材している時に上空でドローンを飛ばしていたのですが、なぜかスパイ容疑にあたるということで投獄されました。先日6年の投獄が宣告されてしまい、今でも彼はかなり劣悪な環境下で自由を奪われている形になります。
取材中の緊張感
堀:高橋さんご自身は、素材を取り上げられたり、逮捕されそうになったりということはなかったのでしょうか? 取材中の緊張感というのはどうですか?
高橋:日々緊張感があります。ある日の取材中は、活動家たちによる政権に対する抗議デモを取材している時、ある武装警察が私の所へ来て、私の腕を押さえつけ、「今すぐデータを消さないとお前を逮捕する」と脅されました。そのまま連れて行かれそうになったのですが、その現場で戦う活動家が、私と当局者との間に入って守ってくれたんです。「今すぐこの現場から逃げて、この事実を伝えてくれ」と。願いを託されたその瞬間が、ずっと忘れられず、今も心の中に刻まれています。