日本人が知らないカンボジア「独裁化」の現実 中国がフン・セン政権の強権を支えている
堀:野党の党首が逮捕されたり、最高裁にかけられて解体させられたりというのは、どういう名目で行われたのでしょうか?
高橋:ケム・ソカーさんの場合は、国家転覆罪でした。「変革の願いを、欧米諸国とともに成し遂げよう」という意思を表明したという理由だけで、国家転覆罪だと言われています。
堀:武器を持って蜂起しようとかそういうことではなくて?
高橋:全然違います。「カンボジア救国党」の台頭を、やはり「カンボジア人民党」は恐れたんだと思います。この地方選挙でも大きな躍進を果たしましたから、解党されていなければ、今年の総選挙で「カンボジア救国党」は 33年間の「カンボジア人民党」の歴史に終止符を打つことができる存在だったのではないかと考えられていました。その強い影響力を排除したいと願う政権による弾圧の、大きな象徴と言えるような出来事でした。
堀:次の写真です。女性活動家のテップ・バニーさんが写っています。どういう状況ですか?
高橋:テップ・バニーさんは、カンボジアのフン・セン政権の弾圧に対する平和運動の、まさに象徴です。彼女は近代カンボジアの最大の社会問題の1つである土地強制強奪の問題に自ら巻き込まれながらも、その横暴に対して立ち上がり、その勇気が世界から賞賛を受けてきました。でも、やはり地方選挙総前に彼女の強い影響力を排除したいと願う政権によって、2016年8月15日、投獄下に置かれていた5人の人権活動家の釈放を求めるデモ中に、私が取材する目の前で、彼女は当局者に連れ去られました。そのまま2年6カ月の投獄の判決を受け、約2年間投獄下に置かれていたのですが、彼女も総選挙が終わった3週間後に釈放されました。彼女が投獄される理由というのも、ただ、投獄されている活動家の釈放を求めるデモを行ったということだけでした。
堀:デモをしただけで逮捕されるというのは、言論弾圧ですよね。
恐怖の弾圧でコントロールされたジャーナリストたち
堀:実を言うと、僕もカンボジアのそうした状況は高橋さんに出会うまではほとんど知らなかったんです。東南アジア各地は、日本のメディアも取材対象範囲として持っていたはずですが、なかなかそうした変容はきちんと伝えられてこなかった。なぜこうしたことが起きてしまっていたと考えますか?
高橋:カンボジアには、アンコール遺跡群など、世界中の観光客の方が訪れる魅力的な場所がたくさんあります。そのような場所をただ訪問して、たとえば1週間や10日間、その地だけを見て帰って行けば、この国で起きている社会問題の真相を知ることなく、表層的な部分だけを見て帰っていくことができる国がカンボジアだと思います。その表面的な魅力の背景に深刻な社会問題が隠されている。そういう時代が長く続いた結果、この弾圧の事実がなかなか世界の人々の目に届いてなかったんだと、暮らしながら考えることが多かったですね。