日本人が知らないカンボジア「独裁化」の現実 中国がフン・セン政権の強権を支えている

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:カンボジアでは、つい先日選挙が行われましたよね。その選挙は、野党なき選挙だったということですが、今カンボジアでは何が起きているんですか?

高橋:7月29日に5年ぶりの選挙が行われました。最大の野党であった変革の願いを掲げていた「カンボジア救国党」という存在がいましたが、その救国党は解党に追い込まれ、党首が投獄され、さらに異を唱えるメディアも閉鎖に追い込まれ、立ち上がる人々の意思は恐怖の弾圧下で駆逐され、断交された民意は政党に反映されていないような状況でした。その結果、125議席のすべてを、フン・セン首相率いる「カンボジア人民党」が掌握してしまったという形です。

:高橋さんが取材を続けてきた写真を今日はシェアしていただけるということで、見ながら話を進めていきましょう。まず1枚目は、つい先日の総選挙のものですね。この人差し指を高く掲げている男性は?

(Photo by Satoshi Takahashi/LightRocket via Getty Images)

高橋:これが、33年間の権威主義的な体勢を維持する、カンボジアのトップに君臨するフン・セン首相です。

:野党が勢力を強めている最中の総選挙だったんですよね。

高橋:はい。2013年の総選挙でも大きな躍進を果たし、まさに「変革なるか?」という願いを抱えた中、昨年地方選挙がありました。その地方選挙で「カンボジア救国党」が躍進を果たしたことが、フン・セン首相に脅威を与えたのではないかと考えます。

:フン・セン首相は、なぜ人差し指を掲げているのでしょうか?

高橋:10日間ぐらいは消えないと言われている、投票したことを示すインクを指につけています。「私は投票を済ませました」ということを表明している瞬間になります。

:逆に言うと、投票を棄権しようものなら、「指に赤いインクがついていないということは、選挙を棄権しただろう」という印になって、それも弾圧の対象になるということですか?

高橋:投票しないということは、たとえば、解党に追い込まれてしまった「カンボジア救国党」を支持するということに繋がる可能性もありますので、人々にとってはとても大きなプレッシャーを感じる選挙だったのではないかなと思います。投票に行かないというのは、職を失ったり、村から追い出されたり、嫌がらせを受けたり、弾圧を受けたり、さまざまな負の要因へと繋がっていく可能性があります。

涙を流しながら投票を待つ男性

:次の写真を見ていきましょう。この男性は泣いていらっしゃいますか?

(Photo by Satoshi Takahashi/LightRocket via Getty Images)

高橋:はい。この方は足に障害を負って車椅子で投票所に来たのですが、涙を流しながら投票を待っていました。やはりこの世代は、ポル・ポト政権の内戦も経験し、その悲劇を経験していますから、彼らの願いはきっと「平和」、そして「真の民主主義」だと思います。彼の泣いている姿を見て、静かにシャッターを切りました。

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