日本人が知らないカンボジア「独裁化」の現実 中国がフン・セン政権の強権を支えている
堀:次の写真にいきましょう。
高橋:これは無効票です。まさに、この不当な総選挙への民意を象徴している写真です。バッテンを付けていますが、これは「私は支持する政党は無い」という強い意志を表明しているものです。今回の総選挙では約60万票の無効票が投じられたと言われています。「カンボジア人民党」が125議席を獲得したわけですが、第2位の政党の票でさえ、37万票でした。それを上回るほどの数を、人々が勇気を持って自分の意思を示したのではないかと思います。
堀:こういう風に「私はバッテンです」って意思を表明するのは、なかなか命がけなのではないですか?
高橋:大きな決断だと思います。なぜなら、投票所には投票を済ませた後に、自分たちの顔写真が貼られた「投票しました」というのをチェックする一覧表が用意されているので、誰が投票したかはすぐにわかってしまう。
堀:「そんなの民主主義の選挙じゃない」と思ってしまいますね。
強まる中国政府とフン・セン政権の結びつき
堀:日本政府はこの選挙活動については、実は税金を使って支援をしているんですよね。
高橋:選挙の投票箱の手配など、約8億円相当の支援を行いました。
堀:実を言うと、「フン・セン政権が独裁化していく。これはもう民主国家としては形をなしてない」という理由で、アメリカなどは早々と支援から手を引きました。「日本はどうするんだ」ということで、国会議員が外務大臣に対して、8億円の積算の根拠や、日本が支援をすることで独裁化を助長してしまうことへの懸念などについて、国会で質問したこともありました。河野大臣は、「傍観をしているわけではない。時期をみて意思決定が必要。状況を見ながらカンボジア政府の対応を見極めていく」と回答しました。外務省の見解は、「中国がバックについているので、ここで日本が引いてしまえば完全に中国サイドに付かれてしまう可能性がある。日本としては、いい塩梅で関わり続け、ある程度手を握っておく状況も必要だ」という説明もしていました。これもわからないでもないと思いましたが、それだけ中国政府とフン・セン政権の結びつきというのは強いのでしょうか?
高橋:はい。この強権体制を支えているのは、やはり中国の存在です。
堀:国際ニュースの中で、「一帯一路構想」という中国の政策を聞いたことがあるかと思います。日本貿易振興機構(ジェトロ)の資料をご覧ください。中国は経済的な活動領域を、「一帯一路構想」という名の下で広げています。中国は「世界経済のエンジン」だという自負がありますし、実際に私たち日本も中国経済とは切っても切り離せないので、彼らの発展は世界中にとっての関心事になっています。ただ、その覇権の広げ方が、「現代のシルクロード」とも言われるように、アジアの大陸を横断し、そして中東、さらにはヨーロッパへと広がっています。そして、海路も使い、東南アジア、中近東、そして最終的にはアフリカへという構想を持っています。「回廊」という言葉が付いていますが、鉄道や道路も建設していく中で、人と物の交流を円滑に進めていく巨大な中国の経済圏を広げていこうということです。もはや中国が軍事的に各国を支配していく必要はまったくなくて、経済的な結びつきを強めていくことで中国の覇権を広げようということですね。これに対してアメリカは米中貿易摩擦、経済戦争をしています。東南アジアでは、「一帯一路構想」の重要な拠点として、このカンボジアが今頭角を現しているということです。具体的に、中国系の企業はカンボジアでどのような動きをしているのでしょうか?