ガキっぽい情熱を克服できない経済学の実態 ノーベル学者もピケティも嘆く内輪ウケ体質
エリザベス女王のご下問に応えるなら、次のようになる。
そもそも、主流派経済学の理論は、「完全情報を有する合理的な個人が完全競争市場において最適化行動を行う」という非現実的な仮定を置いた「一般均衡理論」をベースとしている。
1980年代以降、この一般均衡理論を基礎としたマクロ経済理論を構築する試み(「マクロ経済学のミクロ的基礎づけ」)が流行し、いわゆるRBCモデル(実物的景気循環モデル)が構築された。さらにRBCモデルは、DSGEモデル(動学的確率的一般均衡モデル)へと発展し、1990年代以降のマクロ経済学界を席巻するに至った。
しかし、この「ミクロ的基礎づけ」とは、非現実的な仮定に基づく論理操作であったため、DSGEモデルなる理論モデルは、結局のところ、実際の経済から著しくかけ離れたものとなった。ローマーが、過去30年間で経済学が退歩したと述べた際に念頭にあったのも、この「マクロ経済学のミクロ的基礎づけ」の非現実性である。
リーマン・ショックを経ても改善は見られず
この「マクロ経済学のミクロ的基礎づけ」の問題点には枚挙にいとまがないが、特に重大な欠陥は、その根底にある一般均衡理論が「貨幣」の存在を想定していないということであった。
経済学とは貨幣に関する理論だと思い込んでいる人々は、主流派経済学の理論モデルに貨幣が組み込まれていないと聞いて、耳を疑うであろう。しかし、これは、一般均衡理論の中心的な理論家の一人であるフランク・H・ハーンですら認めている事実なのである。
エリザベス女王は知らなかったであろうが、主流派経済学者たちは、貨幣の概念を欠いた経済理論に依拠していたのだから、金融危機を想定できるはずもなかったのだ。
もっと言えば、そのような経済理論が経済政策に影響を及ぼしていたことこそが、金融危機を引き起こしたとすら言える。それを指して、クルーグマンやサマーズは「有害無益」と言ったのである。
確かに、極端に非現実的な経済理論に基づき、事実を軽視する経済学者たちの提言など、「有害無益」以外の何物でもない。
しかし、2016年に、ローマーが経済学を激しく糾弾する講演を行ったことからもわかるように、リーマン・ショックが起きたにもかかわらず、経済学のあり方には、それほど大きな改善がみられないようである。
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