十勝産小麦を使ったパンは他と何が違うのか 生産者と製造業者が支えるブランド力
「一品種だけを栽培した場合、収穫期が集中してしまいます。栽培面積も広大になるから、収穫も困難。だから、いくつかの品種を使い、収穫時期をずらしているんです。河岸段丘になっている本別町は標高差があって、おなじ品種でも標高によって収穫時期が変わってくる。複数の畑の地質や気温なども踏まえて、計画的に栽培する必要があります」
小麦の品種が違えば、適切な土壌も違ってくる。前田さんは毎年、すべての畑を土壌分析しデータを蓄積。土壌のバランスを考慮しカルシウム、マグネシウム、ミネラルなどを適切に投入しミネラルバランスの良い土つくりを実践している。
長年培ってきた経験や勘だけではなく、テクノロジーも利用する。トラクターに搭載されたレーザー式の小麦の葉緑素センサーで、小麦の施肥量を調整し、タンパク室含有量を分析。データは栽培の指標として活用しているという。
小麦は、バトンリレーの作物
前田農産の農場では、「キタノカオリ」「ゆめちから」「きたほなみ」「春よ恋」「はるきらり」の北海道を代表する5品種を栽培。小麦粉にしたとき香りが強い品種、甘みのある品種、うどんやお菓子に適した品種などの特性に幅をもたせて、製造業者のニーズに応えているのだ。そして、なかでも前田さんが「北海道のパン用小麦のエース」と評する品種が「ゆめちから」。2009年に登録された、まだ新しい品種だ。
「『ゆめちから』は病気に強く、倒れにくい。収量も期待できます。グルテンを多く含んでいるから、国産小麦ではめずらしい超強力な小麦粉になる。北海道を代表する小麦の一種『きたほなみ』とブレンドすると力強い生地のパンになるんです」
前田農産の取り組みは麦作だけにとどまらない。オリジナルの小麦粉を「香味麦選」シリーズと銘打ち、東京都内のパン屋を中心に流通してパンになっている。じつはこのスタイルは、地元の農家にとって異例なこと。そもそも、生産者が収穫した小麦は、農協に出荷されるのが一般的。集められた小麦はひとまとめに製粉され、市場に流通する。ところが、前田さんはあえて、独自の販路を広げている。
「規模拡大だけでは日本の農業に勝ち目はそうそうない。私自身も、自分が育てた小麦が果たして美味しいのか? 美味しくないのか? 必要とされている評価がまずは欲しいと思って、2008年から少しずつパン屋さんにも小麦粉をつかってもらうことになりました。こうして販路を開拓しながら、お客さんの要望を聞くことで、小麦畑で何かできるか?を考えるようになりました」
前田農産では小麦の収穫機、乾燥、選別、貯蔵用の設備を自前で用意。北海道産小麦の普及の立役者でもある株式会社江別製粉に製粉委託し、通年出荷できる体制を築いた。
「小麦はバトンリレーの作物なんです」と前田さん。
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